でも、そういう人って、大きな企業では立場的にマーケターじゃなくて、経営者が多いんです。その意味でも、マーケター視点と経営者視点は本来同じものであるべきで、経営者視点を持ったマーケターも増えては来ていると思います。

 重要なのは、デジタルマーケティングやSNSのノウハウは知らなくても本質的に重要なものを見ていること、顧客を見てお客が望むものがわかること、そして「売れなければ自分が悪い」「売上も利益も自分の責任」という過剰なまでの責任感を持てることですね。

今こそマーケターが
立ち返るべき「本来の仕事」とは

――話は変わりますが、最近のデジタルマーケティングのトレンドについて意見を聞かせてください。昨年、グーグルが「サードパーティークッキー」(3rd Party Cookie)の廃止を撤回しましたが、今後代替技術などが登場した場合、マーケターはどう使いこなせばいいでしょうか。また、PCやスマホでの広告表示がユーザーから嫌われている時代に、どのようなマーケティング戦略を考えればいいでしょうか。

 この問題は、すでにマーケターの手を離れていると思います。すべてがグーグルのアルゴリズムで行われていることなので、マーケターはいわば「俎板の上の鯉」。グーグルのアルゴリズムが自社にうまく作用すればいいし、そうでなければ仕方がないという世界になっていますから。

 実際、多くの企業はデジタルマーケティングの運用を代理店に任せており、代理店はAI活用を進め、できる施策はほぼ外部やAIで行われていて、効率追求の限界に近づいています。企業がこれからできることがあるとすれば、自社のロイヤル顧客とそうでない顧客の購買パターンを自分たちで対比させ、分析して、優良顧客の獲得と育成をすることでしょう。顧客分析の粒度をどうするかは、グーグルがクッキーを禁止しようがしまいが、同じこと。AI検索も始まり、すべてが自動化されていく中で、マーケターにできることは本来の役割に立ち返ることです。

 繰り返しますが、重要なのはプロダクトやサービスの便益と独自性が高いかどうかです。余計なことを考えずに、「顧客に、どんな便益と独自性の提案をすれば喜んでくれるか」にだけ集中する。結局、すべての話はそこに戻っていくと思うのです。

PROFILE
西口一希(にしぐち・かずき)
1967年生まれ。兵庫県出身。大阪大学経済学部卒。90年P&Gジャパン入社。ブランドマネージャー、マーケティングディレクターを経て、2006年ロート製薬に入社。執行役員マーケティング本部本部長として、「肌ラボ」「デ・オウ」など60以上のブランドを統括。15年ロクシタンジャポン代表取締役社長。グループ過去最高利益に貢献し、アジア人初のグローバルエグゼクティブコミッティーメンバーに選出。17年スマートニュース参画。執行役員マーケティング担当。19年M-Forceを創業、その後マクロミルに売却。現在、Strategy Partners代表取締役社長、Wisdom Evolution Company代表取締役社長。『たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング』『アフターコロナのマーケティング戦略 最重要ポイント40』『ビジネスの結果が変わるN1分析』『ブランディングの誤解 P&Gでの失敗でたどり着いた本質』など著書多数。

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>>「西口一希氏に聞く、マーケティングの『いま』と『これから』(上)
>>「西口一希氏に聞く、マーケティングの『いま』と『これから』(中)」