「デザインがよければ売れるのに」がただの言い訳でしかない理由

「うちはデザインがよくないから売れないんだよな……」
顧客の心をつかむには、デザインこそが重要だ――ビジネスシーンで盛んに聞くようになった「デザイン」という言葉。その影響か、ついつい自社のうまくいっていない理由をデザインに求めてしまう……そんなことはないでしょうか。
しかし、『アフターコロナのマーケティング戦略 最重要ポイント40』を刊行した、足立光氏(ファミリーマートCMO)と西口一希氏(Strategy Partners代表取締役、M-Force共同創業者)によると、デザインは確かに重要だが、「デザインに頼る前に考えるべきこと」があるという。日本を代表するマーケター2人が注目するポイントとは?

そもそもデザインはなぜ重要か?

 最近、デザインという言葉がよく聞かれるようになりました。有名デザイナーを登用して、洗練された美しいデザインをつくれば、ブランド価値の向上につながり、ひいては売上も増えるだろうと、つい期待したくもなります。

 実際に、デザインは非常に重要です。なぜかというと、人が何かを好きになる要素は、人格、物語、デザインの3つしかないからです。

 たとえば機能やスペックでは、好きになることはありません。結婚相手には、背が高く、高学歴で、高収入の3高がいいと言われていましたが、これは全部スペックです。選ぶ要因にはなっても、その人を好きになる要因ではありません。実際に、3高で条件はいいけれど、どうも人柄が好きになれないということはあるはずです。それでも無理に選択すれば、愛のない結婚になってしまいます。

 人は物語(ストーリー)のあるものを好みます。たとえば、廃材からつくる服というストーリーに惹かれて、応援したいという気持ちがわいてくることがあります。無印良品を好む人は、必要のないものを省いて最低限でいいものをつくるというストーリーと、シンプルで使いやすいデザインに惹かれるのです。

楽天、ドン・キホーテに学ぶデザインの前に考えるべきこと

 その一方で、楽天市場のウェブサイトを見ると、非常にごちゃごちゃした印象で、四方八方からポップが次々と出てきます。ディスカウントショップのドン・キホーテの店内は雑多な品物が所狭しと積まれ(「圧縮陳列」と呼ばれています)、いわゆる洗練されたスタイリッシュなデザインとは程遠い印象です。しかし、両社ともに大きな成功を収め、今でも事業を継続できているのは、それが多くの顧客に受け入れられているからにほかなりません。

「デザインがよければ売れるのに」がただの言い訳でしかない理由楽天のトップページより。なぜ多くの人がここで買い物をするのか、一度考えてみてほしい

 洗練されたデザインや有名デザイナーを起用すれば、ブランドの価値や施策の訴求力が上がると期待するのは間違いです。「好き」であることと「購買する意志」は必ずしも一致していないのです。だから、いくら有名デザイナーが手掛けようとも、売れない製品は売れません。少しインターネットを調べれば、有名デザイナーの失敗作はたくさん見つかります。既存商品を洗練されたデザインに変えて好評を博して話題になったものの、「売上が減りましたので、元に戻しました」的な事例は過去にもたくさんあります。

 それよりも、その商品が顧客に提供できる便益と独自性をわかりやすく伝えるということが土台であり、そのためにデザインがあるという順番を間違えてはいけません。

 そしてそれを実現するためには、人任せにするのではなく、自分たちの頭で考えないといけないのです。

 繰り返しになりますが、有名デザイナーのクリエイティブを起用してデザイン性やアート性を追求するだけでは、売上が上がることも、ブランド価値が高まることもありません。自社商品が提供できる具体的な顧客への便益と独自性の訴求が重要なのです。