【戦争が流通を変えた】十字軍に学ぶ「中世ヨーロッパの交通革命」とは?
「地図を読み解き、歴史を深読みしよう」
人類の歴史は、交易、外交、戦争などの交流を重ねるうちに紡がれてきました。しかし、その移動や交流を、文字だけでイメージするのは困難です。地図を活用すれば、文字や年表だけでは捉えにくい歴史の背景や構造が鮮明に浮かび上がります。
本連載は、政治、経済、貿易、宗教、戦争など、多岐にわたる人類の営みを、地図や図解を用いて解説するものです。地図で世界史を学び直すことで、経済ニュースや国際情勢の理解が深まり、現代社会を読み解く基礎教養も身につきます。著者は代々木ゼミナールの世界史講師の伊藤敏氏。黒板にフリーハンドで描かれる正確無比な地図に魅了される受験生も多い。近刊『地図で学ぶ 世界史「再入門」』の著者でもある。

十字軍に学ぶ「中世ヨーロッパの交通革命」とは?
本日は、中世ヨーロッパにおける「十字軍」の影響を解説します。
まず、大前提として十字軍は最終的に失敗に終わります(教皇庁の見解としては停滞と見なすべきでしょう)。その上で、次の2つの影響が起こります。
(1)教皇権の衰退…… 十字軍の発起人である教皇(カトリック教会)の権威が低下
(2)領主の衰退…… 十字軍の主力となった領主が疲弊
ここで注目すべきは(2)です。そもそも中世での王権は概して脆弱なものでした。しかし、領主たちは度重なる十字軍により疲弊し、代わって疲弊を免れた王権が相対的に強化され、真の意味での全国統一を進めます。
典型的な例がフランスで、この国家では王権の強化が進み、後に絶対王政と呼ばれる国制の基盤が形成されます。
また、十字軍は新たな交易路の確立にも寄与しました。十字軍の要因の一つに「巡礼」を挙げることができますが、巡礼によって多くの人々が往来することで、交易が活性化します。
十字軍の目指したエルサレムだけでなく、ローマやサンティアゴ・デ・コンポステラといった聖地や巡礼路は、同時に交易ルートとしても重要な意味を持っていたのです。
これにより、中世ヨーロッパは地中海の諸勢力との接触を経て、遠隔地との商業が活性化することになるのです。
(本原稿は『地図で学ぶ 世界史「再入門」』を一部抜粋・編集したものです)