でも、何回か講座を受けるうちに、なんと腕がピクンと動いたのです。3カ月以上動かない状態が続いていましたから、そのときは号泣しました。そこからどんどん回復し、やがて現場に復帰でき、難しい手術も行うことができたのです。全部で8カ月程度、医師業務を休んでいました。今振り返れば、ヨガが自律神経のバランスを取り戻すきっかけになったのだと思います。実際にその後、さまざまな人を対象に実験を行い、呼吸を意識したゆったりしたヨガは自律神経にいい働きを促すことがわかりました。

 耳鼻咽喉科を受診する患者さんの中でも、仕事や家庭のストレスから「難聴」「突発性難聴」「耳鳴り」を発症するケースは非常に多いです。加えてメニエール病(めまい)の発作もストレスと関係します。私は12年かけて調査したのですが、めまい発作直前は交感神経が異常に興奮することを突き止めました。

ストレスによる「めまい」は
「シモヤケ」に似ている?

 どのようにストレスから「めまい」が起こるのかと言いますと、実は「シモヤケ」に似ているのです。シモヤケは寒さで手足の先が赤く腫れてかゆくなりますよね。これは寒さの刺激で、手足の指の交感神経に異常な興奮が起こり、それが指先の血管を締め付け、そのときに漏れ出た血液内の成分が指先のむくみやかゆみを引き起こすというメカニズムで起こります。

 内耳の構造も指先の血管と似ていて、シモヤケの寒さが、メニエール病の場合はストレスが刺激となって血管をしめつけ、内耳をむくんだ状態にさせるのではないかと推察しました。ですから、私はこれを「シモヤケ理論」と名付けたのです。まだ症例が少ないのでよりしっかりと研究を進める必要がありますが、すでに米国ではこの理論を裏付けるデータがあります。メニエール病が心身のストレスが原因で発症することはたしかでしょう。

 人は「不快」を感じると、脳の広範囲に構築されている中枢性自律神経ネットワーク(CAN)が興奮します。これがストレス反応で、この状態を鎮めるのが本来は副交感神経です。ところがストレスが蓄積されると、CANのバランスが乱れ、本来の機能が落ちてしまいます。すると寝つけなくなり、心身の疲れがとれず、疲れが疲労となって蓄積され、今度は「疲労」がストレスのもとになるという悪循環に陥ってしまいます。この過程で病も発症しやすく、健康な心身からは遠ざかってしまいます。

 離職に悩んでいるときは、何かしらの要因があり、そのストレスが蓄積された状態のはず。まずはストレスを解放し、体を回復させてからもう一度仕事(職場)に向き合ってほしいと思います。追い込まれているときはベストな決断ができません。一方で体が回復すると自身の力を発揮してストレスに立ち向かうことができ、それによって仕事(職場)の状況も良くなる可能性があるのです。