では、こうした苦しみの輪廻から抜け出すには? 答えは明快で、逆のことをすればいいのです。つまり、欲望から目をそらし、真実をよく見るようにすればいいのです。

私たちは欲に苦しめられ、欲によって生きている

 そう言うのは簡単でも、苦の原因となる「欲」から目をそらすことは、実際にはとても一筋縄ではいきません。人は常にいろいろなことを望み、欲しがります。

「ずっと一緒にいたい」「もっとお金があれば」「新しい○○が欲しい」……これらを仏教では「渇望」と言います。その望みがかなったと思っても、すべては移ろい、永遠にあり続けるものはないので、飢えはいつまでも満たされません。

 私たちは資本主義というある種の宗教のなかで生き、多くの人は今日より明日がより豊かで便利になることを望みます。

 でも、お釈迦様は「欲望の充足こそが幸せ、という価値観ですごしているうちは、一生、安楽(=本当の幸せ)を得ることはできない」と説いています。

 一切皆苦を理解しないままに人やモノ、金、物事に執着していると、自己中心的な生き方になり、一切が苦しみになってしまうのです。

 とはいえ、渇望が苦しみの原因と言われても、この世を生きるうえでお金は必要だし、欲をなくしてしまえば経済はまわりません。では、どうすればいいのでしょう? ヒントは、お釈迦様の「欲望を滅する」という言葉にあります。

「滅(原語「ニローダ:nirodha」)」は仏教用語で、「制止する」「コントロールする」という意味になります。

 つまり、私たちにできるのは欲望のコントロールです。もちろん、「欲望をコントロールせよ」といきなりいわれても、容易にできるものではありませんが、日常生活で無理なく習慣として続けられるようになると、従来とは異なる道が開けてきます。