樹木希林さんの家で正座
今も心に残る「お説教」の中身
樹木希林さんも忘れられない方です。内田裕也さんと結婚する以前、彼女が新興宗教に凝っているという情報があり、私に取材命令が下りました。彼女は自宅に行くと、何も聞かずに招き入れてくれて、仏壇の前に座りました。取材の趣旨を伝えると笑い出して「新興宗教には入りません。ただ、人の上に何かがあると思うことが謙虚への道」と、滔々と哲学を語り始めました。とても週刊誌の記事になるような話題ではないのですが、3時間以上正座したままで、話を聞きました。
話の切れ目を見付けて、「希林さん、新興宗教じゃないなら記事にはしません。お時間とらせて申し訳ありません」と言うと、彼女は独特の笑顔になり、「あなた、若いのに3時間も正座して人の話を聞いてたわよね」「イマドキ珍しい」「記者だからといって礼儀を忘れちゃだめよ」と説教されて帰りました。
没後、彼女の言葉を集めた本がベストセラーになりました。会うまでは奇妙な女優だと思っていましたが、観察眼も人生観もある立派な人だと気づかされました。ただ、あのとき私が正座をしていたのは礼儀正しいわけではなく、腰痛のため胡座がかけず、正座の方がラクだっただけで、帰路で足がマヒして、座り込んでしまったことを覚えています。
さて、田中裕子さんといえば、NHK連続テレビ小説『おしん』で売り出し、不思議な雰囲気で人気もある人でした。ただ、沢田研二さんと略奪婚を果たしてから、女優としてはほとんど仕事をしていません。私は彼女に何度も寄稿してもらいました。文体に味があり、中身も面白いのですが、編集部の注文には全く応えてくれないのです。
たとえば、読書日記をお願いしたときのことです。普通3冊は取り上げてくれるものなのですが、彼女の原稿は1冊について長い感想が書いてあるだけ。「3冊取り上げてほしい」というお願いを再度しても、「1冊しか勧められない」と頑固な回答。編集長と相談しましたが、「原稿は面白いし、この文体を変えない方がいい」とそのまま掲載することになりました。わが道を行く――そんな人生そのもののような原稿だったと思います。