絶対に「渡辺姓」を名乗らなかった
杏さんのすさまじい心意気
他にも、一瞬だけ会って会話したり、取材したりした女優・タレントは大勢います。この記事を書くにあたって1日かけて思い出したら、100人はいました。たとえば、私自身は挨拶しかしたことがありませんが、杏さんは印象に残っている女優の1人です。デビューから10年くらいは文春のオファーを全部受けてくれました。
幼少期、父・渡辺謙さんが他の女性に走り、彼女の家庭には養育費も支払われず、困窮した時代がありました。そのとき、杏さんの兄が編集部を訪れ、「父に仕送りしてほしい」という彼の心情を綴った手記を掲載しました。杏さんは幼かった時期でしたが、「渡辺杏」を名乗ればハリウッド俳優の娘ということでデビューしやすかったはずなのに、渡辺姓を決して名乗りませんでした。一方、記事に恩義を感じてくれていたのか、文春には出続けてくれました。見上げた心根の持ち主です。
ドラマ『北の国から』の名子役・中嶋朋子さんについて思い出すのは、開口一番「学校では全然モテません」と言ったこと。
夏木マリさんについては、文春の「こいつだけは許せない」というコーナーで、あるライターが夏樹陽子と間違えて猛烈な悪口を書いてしまい、編集部が謝罪に行ったことがありました。意外にも、彼女からの逆提案は「謝罪はいらない。次の企画を誌面でやらせて」。もちろん、大きな文字で「夏樹マリさんごめんなさい」と大見出しのグラビアを用意しました。
和田アキ子さんとは、寿司屋で偶然隣に居合わせました。文春と知らずに紅白歌合戦落選の悪口を言っていたので、「文春ですが書きません」と挨拶したら、「うるさくてごめんなさい」とテレビのコワモテとは大違い。思ったほど長身ではなく、握手した手がとても温かかったのを覚えています。
他にも座談会や寄稿などで1回だけお仕事をした方々を挙げると、若尾文子さん、高島礼子さん、富田靖子さん、秋吉久美子さん、倍賞美津子さん、室井滋さん、水澤アキさん、松たか子さん、吉田日出子さん、浅木久仁子さん、羽田美智子さん、浅丘ルリ子さん、二谷友里恵さん、古手川祐子さん、比嘉愛未さん、石田ゆり子さん、貫地谷しほりさん、斉藤由貴さん、應蘭芳さん、原田美枝子さん、大空眞弓さんなどなど――。