対照的で自由な東京生活
座間先生(山寺宏一)が歌い出した『ワッサン』
一方、今日の東京の嵩(北村匠海)は、自由を謳歌している。
座間先生(山寺宏一)が、急にへんな歌を歌い始めた。「ワッサワッサリンノモンチキリンノホイ」という言葉がさっぱりわからない。
図案課に代々伝わる歌であり、自由に解釈して構わないのだ。嵩は座間に言われて、勝手に歌詞をつけてみると、褒められた。
その後、先生に連れられて、酒屋に繰り出し、その歌を歌っていると、軍人に咎められる。だが座間は、図案課に伝わる名曲であると軍人に歯向かうのだった。
黒井先生の決めつけ教育に対して、座間先生の「自由」教育という対比を描く。その意図は明確すぎるほど明確だが、そのためにずいぶんとへんな歌を用意したものだ。と思ったら、これ、実際に存在した歌だという。
やなせたかしが『アンパンマンの遺書』(岩波現代文庫)の中の「制服は背広」の章に書いてある。東京高等工芸学校の各科に歌があり、これは図案科の歌であった。木材科は「ペロリ節」。
とここで思ったのは、『あんぱん』の主題歌『賜物』が早口で何を歌っているのかよくわからないという意見もあるが、この『ワッサン』という歌に比べたら全然、早口を聞き取れば全然理屈に則ったわかりやすい歌である。もしこの『ワッサン』を主題歌にしていたら、大変な物議を醸したことであろう。
第26回のレビューで座間先生役の山寺宏一は『アンパンマン』のジャムおじさんの声を担当していると紹介したが、山寺はこの一役ではなく、ほかにも兼任している。そのひとりがかまめしどんだ。「座間」の名は「釜」にもひっかけてあるのかもしれない。
飄々とした座間先生が、ここでは軍人の圧に決して屈しない毅然とした強さを発揮した。そのシーンは胸のすく思いだったが、いつまでそれが許されるのか不安もある。
盧溝橋事件が起こり(1937年7月)、これが日中戦争の発端となり、それが太平洋戦争へと拡大し、第二次世界大戦の一部となっていく。
黒井はますます「いまこそ忠君愛国の精神を肝に銘じなさい!」とのぶたちを煽る。