いつになく真剣な
屋村(阿部サダヲ)の説得
やたらと戦争に行かないよう促す屋村。足をわざとケガしたらどうかとか、川に溺れたことにしたらどうかとか。でも、豪は澄んだ目をして、戦争に行くことが当然だと思っている。
対して、屋村は
「戦争なんてろくなもんじゃねえよ」
「勇ましく戦おうなんて思うな。逃げて逃げて逃げまわるんだ。戦争なんていいやつから死んでくんだからな」
と、その口調はいつになく真剣だ。
「勇ましく戦おうなんて思うな。逃げて逃げて逃げまわるんだ」はまるで加川良の「教訓I」(1971)の歌詞のようだった。
ただ、それだけでは終わらないのが屋村。「会っときたい女はいないのか」と、豪の気持ちを聞き出す。屋村は人の気持ちをほぐす天才である。
釣りから帰ったときも、豪が大きな魚を獲ったと期待させて、実は……ということで、迎えに出た朝田家の面々を笑顔にした(このときの蘭子の笑顔がいい)。最初から小さい魚しか釣れませんでした、では、豪の面目が立たないが、この順番だったら笑って済む。一家にひとり、屋村が欲しい。

豪が屋村と出かけ、蘭子(河合優実)が郵便局に出勤している間、のぶ(今田美桜)が羽多子(江口のりこ)とくら(浅田美代子)とメイコ(原菜乃華)を呼び、蘭子が豪を好きらしいがどうしたらいいか相談していた。
羽多子だけは、とっくに蘭子の気持ちに気づいていた。しかも、子どもの頃からそうだったらしい。さすが、羽多子さん。いつも冷静に物事を見ている。
でも、彼女の冷静さは、このままふたりの気持ちが通じ合っても、戦争に行くのだから、つらいだけではないだろうかという考えに至るのだ。
その晩、眠れない蘭子は、羽多子と父・結太郎(加瀬亮)との馴れ初めを聞こうとする。そこにのぶとメイコも加わり、父が母に宛てた手紙を見せてもらって、大はしゃぎ。
羽多子役の江口のりこは、夫との関係についてこうコメントしている。
「初週の木曜で亡くなってしまって、びっくりしましたね。羽多子としては、もちろん悲しいけれども、まずはそれよりも生活をどうにかしなくてはいけない。小さい子どもが3人いて、悲しむ暇がない。どんな夫婦だったのかというのは、今も想像するところではあるんですが……。
というのも物語上、結太郎さんと直接話したのは『出張ご苦労さまでございました』『お気をつけて』『行ってらっしゃい』くらいしかないんですよ。でもきっと、結太郎さんが出張先で羽多子を思いながら手紙を書く時間は、唯一ゆっくりできる時間だったんだろうなと。
羽多子にとっても、その手紙を読んでいる時間が、一番豊かな時間だったんだと思います。帰ってきたらきたで、生活に飲まれてしまいますし、離れている時間が二人の愛情を強くしていったのかもしれませんね」
「離れている時間が二人の愛情を強くしていったのかもしれませんね」とはいい言葉。
ドラマのなかでは、羽多子と結太郎はお見合いのときにはじめて会ったけれど、結婚してから「ゆっくりお父ちゃんを好きになった」と語る羽多子はいつものクールさが鳴りを潜め、未だ恋する娘のようにも見えた。手紙の入った箱が赤いきれいな箱なのも、彼女の気持ちが伝わってくるようだ。
蘭子も母と父の手紙のやりとりから、大事な人と離れても心のなかに住まわせることができると悟ったようだ。