
総合商社の丸紅が勝負に出た。
新年度が始まったばかりの4月1日、住友ファーマから同社の中国・アジア事業を買収すると発表。すでに出資などを行っている中国や中東、アフリカの医薬品販売事業者との相乗効果も発揮し、29年度にはグループ全体で医薬品関連事業の売上高を1000億円超に引き上げるという構想を掲げた。
買収の枠組みはこうだ。
第1段階として住友ファーマが設立する新会社に中国・アジア事業を移管。次にその新会社「丸紅ファーマシューティカルズ(仮称)」の株式60%を丸紅が450億円で取得する。時期は今年7~9月を予定。29年以降、丸紅は残る株式40%も270億円で入手できるオプション権を獲得する。
対象となるのは中国の事業統括会社である住友製薬投資(中国)有限公司と、東南アジアと香港・台湾の事業を束ねるシンガポールにあるスミトモ・ファーマ・アジア・パシフィック、そしてその両社子会社で手掛ける事業だ。このうち、最古参が03年設立の住友製薬(蘇州)有限公司。蘇州市(江蘇省)にある工場だ。すなわち、丸紅は20年以上の実績を持つ事業基盤を一気に獲得する。
「総合商社の投資基準に照らし合わせると、医薬品業界はほぼ間尺に合わない」。金融機関や製薬会社で経験を積んできたあるバイオベンチャー経営者はこう指摘する。仕事柄、これまで総合商社とやりとりすることもあったが「彼ら彼女らが設定する期間で創薬などに対する投資を回収するのは極めて困難」と断言する。資源・エネルギーへの投資も似たようなものだと思いがちだが、「場合によっては政治力も使い、潰せるリスクは潰していくが、残念ながらタンパク質にそれは通じない」と続ける。
そのため、総合商社による製薬会社やバイオベンチャーへの投資事例は「あまり記憶にない」。かつて住友商事が子会社を通じてペプチドリームに出資していたり、三菱商事が20年にペプチグロースを設立したりと恐らく十指に満たないと思われるそうだ。総合商社の投資会社化が進んでいることを踏まえるとなおさら。今後、増加傾向に転じていくとは思えない。
確かに総合商社のライフサイエンスやヘルスケアに対する取り組みを見渡すと、非常に限定的。伊藤忠商事は、子会社で原薬・中間体を扱っていたり、CROへ出資していたりするが、バイオベンチャーなどへの投資は皆無に近い。三井物産も製薬会社の創薬向けにスーパーコンピューターを提供するなどに止まる。双日や豊田通商は病院事業運営などに乗り出しているのが目につく程度。
最も積極的なのが住友商事になろうか。子会社・住商ファーマインターナショナルを核に事業展開しているが、創薬に必要となる研究資材や機器の販売であったり、パートナリングを支援したりするのがメーン。ユニークなのが三菱商事で、都市開発事業で得たノウハウを活用し、ライフサイエンス・ヘルスケアの一大エコシステムを神奈川県藤沢市や鎌倉市、神戸市中央区につくろうとしている。
こうして見ると、丸紅ののめり具合が業界ではいかに“異質”かが浮かび上がってくるだろう。