なぜ税務署は名義預金を
見つけられるのか
なぜ妻名義の預貯金口座であっても、夫の死去後に税務署は口座に気付き、相続税の申告対象であると指摘できるのだろうか。どうやって口座の存在に気付くのか疑問を持つ読者も多いだろう。
その答えは税務署の持つ「権限」にある。税務署は「金融機関」を調査する権限を持っている。口座の存在だけではなく、出入金の動きも遡って調査できるのだ。そのため、夫の口座と妻の口座の動きを調べ、名義預金の可能性を追及できる。
例として、妻がへそくりを貯めるタイミングが毎回夫の給与振り込みの後だったら、夫固有の財産を自身の通帳に移しているに過ぎず、名義預金と疑われる可能性が高い。もしもへそくりを隠し、税務調査を受けてしまった場合は重いペナルティが待ち受けている。名義預金の発覚により、本来支払うべき相続税額に延滞税や加算税が加算されてしまうのだ。悪質な財産隠しと指摘された場合は、重加算税の課税で納税に苦しむおそれもある。
生前に夫が妻に内緒で預貯金口座を開設し、こっそりへそくりを貯蓄していた場合も、お尋ねが届くことがある。家族に内緒で開設していた預貯金口座の存在を、税務署からの通知によって知らされるのだ。「あの人、へそくりを貯めていたなんて」と驚かされるケースも案外多い。へそくりは相続をきっかけに大きなトラブルに発展する可能性があるのだ。
へそくりは自分のものと主張しても
相続税が追徴課税された実際のケース
へそくりでも自分名義の通帳だからと疑問に思う人向けに、実際に税務署から追及を受け、相続税の追徴課税を受けたケースを紹介する。
2007年10月4日の国税不服審判所の裁決では、亡夫から生前に渡された生活費をやりくりして、亡夫公認で貯めていたへそくりについて、妻は自身の固有財産であると主張した。妻はへそくりを貯める際に婚姻前から開設していた預貯金口座を使っており、婚姻後はへそくりと一緒に預貯金運用を行った。結果として国は、夫が預貯金の管理や運用を妻に任せていたからといって、そのお金が妻の財産になるわけではないと判断している。
この裁決では妻は自身名義の有価証券などについては妻固有の財産であると主張したが、贈与税の申告がないこと、亡夫が管理を継続していたことなどから、贈与も認められなかった。
このように、実際にへそくりをめぐっては国税に関する処分を行う国税不服審判所によって厳しい判断が下されている。(参考 国税不服審判所 平19.10.4、裁決事例集No.74 255頁)