ATACSとCBTCは
何が違うのか

――優先順位が違うのですね。

 CBTCも目的は列車増発による輸送力向上、自動運転対応など別のところにあるため、海外では車上コンピューターの故障など列車の在線位置が分からなくなった時のバックアップ用として、軌道回路を残すことがほとんどです。ATACSは軌道回路レスから始まって、CBTCがやっているような機能をどんどん追加していって、何でもできるようになっていきました。

――ATACSは機能面でどのような特長がありますか。

 踏切の動作状況を常に監視し、うまく動作しなければ列車を手前で止める「踏切制御機能」がATACS最大の特徴です。世界の無線式列車制御システムでこの機能を実用化したのはATACSだけです。

 もうひとつは「移動閉塞(へいそく)」という概念です。これまで軌道回路の中にはひとつの列車しか入れなかったのが、ATACSは列車の位置を個別に細かく把握できるようになるため、列車間隔を詰められるようになります。これはかなり効果があると思います。

 雨風規制とか工事で徐行が必要な場合、今までは乗務員に通知して人間の注意力で徐行していましたが、ATACSの「臨時速度制限機能」であれば自動的にブレーキがかかります。

――ATACSは「ATO(自動列車運転装置)」「ATOS(東京圏輸送管理システム)」と融合し、高機能化を目指すとしています。どのようなことが可能になるのでしょうか。

 ATACSは路線全体を見ながら個々の列車を制御する「群制御」が可能です。今はひとつの列車が遅延すると団子状態になってしまい、「後続列車遅れているので止まります」といって駅で運転間隔調整を行います。これに対してATACSの群制御は、ATOSから受け取ったダイヤ情報と、各列車の運転間隔を考慮した運転パターンをATOに送信します。遅延回復だけでなく、先が詰まっている場合は無駄な加減速を止めてゆっくり走らせるなど、省エネ運転も実現します。

※山手線は現在、デジタルATCに従って運転士が運転しているが、ATOが自動運転、運転士が車掌業務を行うワンマン運転を導入予定だ。これまでのATOはあらかじめ決められた運転曲線をもとに先行列車との間隔を考慮しながら運転していたが、ATACSと連携した「高性能ATO」は列車ごとの状況に応じた緻密な指示が可能になる。また、個々の運転士の判断を必要としない群制御は将来的なドライバレス運転の実現に向けた重要な布石となる。