全ての設備が二重化され
故障安定性が飛躍的に向上

――ATACSの開発目標は何だったのでしょうか。

 鉄道技術研究所(現・鉄道総合技術研究所)が1985年に研究・開発に着手した「CARAT」を引き継いで、JR東日本が1995年に開発に着手しました。軌道回路は約150年前に開発されてからずっと使われてきた仕組みですが、1990年代に急速に進歩した情報通信技術でシステムを再構築して軌道回路を廃止し、設備を削減することが当初からの目標でした。

――最新技術でありながら40年もの歴史があるのですね。軌道回路レスでどのような設備を削減できるのですか。

 信号機や信号装置のシンプル化ですね。大きな駅に設置する地上コンピューターと専用無線のアンテナだけの非常にシンプルな形です。もうひとつは信号装置と軌道回路、信号機を接続するケーブルです。これはすごく負担になっていまして、これが光ケーブル1本で済むため大きく減ります。高架化工事など線路の切り替え時も、ATACSにあらかじめ新しい線形のデータを入力して、当日に無線で切り替えるだけで終わるため、工期の短縮が図れます。

 シンプルになると同時にメリットもあります。今はさまざまなシステムが二重系ですが、軌道回路は一重系で環境変化に弱いんですね。例えば、鉄片が落ちたとか雨風とか色々な要因があるのですが、故障が起こると一発でやられてしまう。 ATACS化で全ての設備が二重化されますので、故障安定性が飛躍的に良くなるメリットがあります。

――私も前職でケーブルのお化けのようになった信号装置を見たことがあります。具体的にどの程度のコストダウンが期待できるのですか。

 線区条件によって変わるので明確にどれくらいとは言えませんが、類似のシステムとして今、山手線・京浜東北線が使っているデジタルATC(自動列車制御装置)を取り換えるよりは安いです。メンテナンスコストも線区によりますが、設備が大幅に減っていますので間違いなく下がります。

――無線式列車制御装置といえばヨーロッパ主導の「ERTMS」、世界の都市鉄道で普及している「CBTC」などがありますが、ATACSはこれらと何が異なるのでしょうか。

 実は軌道回路レスを実現したシステムって実は世界にあまり例がないのです。それぞれの無線式列車制御システムはそもそも目的が違っていまして、ERTMSはEU統合で各国間の相互乗り入れを簡易化するために信号システムを統一したいが、既存のものに統一すると反発があるので、どうせなら新しいのを作ろうとなったものです。最終的には軌道回路レスを目指していますが、インターオペラビリティ(相互運用性)のある統一システムを作るのが大きな目的でした。