
日本の若者は自己肯定感が低いといわれている。内閣府が行った「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」(2018年)によると、「自分に満足している」と答えた若者は、欧米諸国が8割だったのに対し、日本の若者は4割強しかいない。どの国際比較データをみても、欧米諸国と比べて日本の若者は飛び抜けて自己肯定感得点が低いのは事実である。それは、なぜだろうか?
文化の違いに目を向ければ謎が解ける
日本の若者の自己肯定感得点が欧米の若者と比べて著しく低いのはなぜなのか。そこを突き詰めて考えていくと、「自己肯定感が低いのは問題だ」「何とかして自己肯定感を高める必要がある」といった論調がいかに的外れであるかがわかるはずだ。
どの国際比較データでも、「自分に満足」という比率は、欧米の若者では非常に高く日本の若者では著しく低い。そうしたデータが意味するものは、自己肯定感そのものの違いではなく、自分を大きく見せるために過大評価する心理傾向があるか、謙虚さゆえに自分を厳しい目で見つめる心理傾向があるか、といった文化的背景の違いである。
子ども時代にアメリカで暮らした社会学者の恒吉僚子(つねよしりょうこ)は、アメリカ人の権威的な物言いのきつさに違和感を覚えた経験の一例として、つぎのようなエピソードをあげている。
突然、新緑の薫りを胸一杯吸いたくなった私は、窓を降ろしはじめた。その時、顔を半分私のほうに向けながら、いかにも権威を持った口調でシンディーが、「いたずらは止めなさい」と怒鳴ったのである。そこには、自分の命令を聞かないなどとは言わせない、という威嚇的な雰囲気があった。
(恒吉僚子『人間形成の日米比較―かくれたカリキュラム』中公新書)
この事例でわかるのは、アメリカの大人は「自分の権威」を振りかざして人を思うように動かそうとする傾向があるということである。
心理学者の東洋(あずまひろし)たちが行った日米母子比較研究の結果をみても、子どもが言うことをきかないときの親の対応の仕方における日米の対照性がよくあらわれている。
たとえば、食事をちゃんと食べないとき、アメリカの場合「食べないとダメでしょ」「言うことを聞きなさい」などと、理由はわからなくてもとにかく親の言うとおりにさせようとする母親が50%と圧倒的に多かった。そのように親としての権威に訴えて、有無を言わさず子どもを従わせるという母親は、日本では18%しかいなかった。
日本で37%と最も多かったのは、「ちゃんと食べないと大きくなれないよ」「野菜を食べないと病気になって遊べなくなるよ」などと、言うことを聞かないとどういう望ましくないことがあるかを理解させようとする母親だった。このような母親は、アメリカでは23%と権威に訴える母親の半分以下だった。