これは、子ども時代に暴力的番組をよく見ていた者は大人になってからとくに暴力的になることを証明した貴重な調査データである。

 だが、これらのデータを見ながら日本人の様子を振り返ってみると、おもしろいことに気づく。

 たとえば、日本の男性の42%あるいは22%が、過去1年間に配偶者を押したり掴んだり突き飛ばしたりしているだろうか。日本の男性の69%あるいは50%が、過去1年間に腹を立ててだれかを突き飛ばしているだろうか。そんなことは考えにくい。

 女性の場合も同じだ。日本の女性の39%あるいは17%が、過去1年間に配偶者に物を投げているだろうか。日本の女性の17%あるいは4%が、過去1年間に腹を立ててだれか大人を殴ったり首を絞めたりしているだろうか。これも考えにくいことだ。

 これほどまでにアメリカ人は攻撃的であり、自分の感情をコントロールすることができないのである。

 このことは、高校生を対象とした調査からも明らかである。先にあげた国立青少年教育振興機構が2017年に実施した「高校生の心と体の健康に関する調査」には、自分の日常的な感情面についての質問もある。

 そのデータをみると、「物を投げたり、壊したりしたくなる」という高校生の比率は、アメリカ28.6%、日本14.7%と、日本はアメリカのほぼ半分になっている。

「人を責めたり、叫んだりしたくなる」という高校生の比率も、アメリカ23.1%、日本13.5%となっており、日本の方がはるかに低い。

「誰かを殴ったり、傷つけたりしたくなる」という高校生の比率も、アメリカ26.4%、日本9.6%というように、2.5倍以上の開きがみられる。

 それなのに、「私は怒った時や興奮している時でも自分をコントロールできるほうだ」という項目を肯定する高校生の比率は、アメリカでは81.6%、日本では63.6%となっている。

書影『自己肯定感は高くないとダメなのか』(筑摩書房)『自己肯定感は高くないとダメなのか』(筑摩書房)
榎本博明 著

 こうした結果は、自己肯定をめぐる文化的圧力の違いを如実にあらわすものと言える。

 アメリカの高校生は、日本の高校生に比べて、自分の衝動をコントロールすることができず、他人に対して著しく攻撃的・暴力的であるにもかかわらず、自分をコントロールできると思い込んでいる、あるいはそのように答える傾向が顕著にみられるのである。

 このような意味での自己を肯定する姿勢、現実の自分を振り返ることなく自己を肯定する姿勢を、日本の若者も見習うべきだというのだろうか。

 僕はそうは思わない。自分をちゃんと振り返ることをせず、自分を著しく過大評価し、「自分はすごい」「自分はできる」「自分に満足」などと言い切ることによって、自己肯定感の得点が高くなるのだとしたら、そのような得点を高めようとする必要などまったくないだろう。