アメリカでは、人格形成において、自信をもつことが重視され、自己主張ができるようにと訓練されるため、誇大的で無神経なタイプの自己愛過剰が多いのだろう。

 そのような自己愛過剰は日本では多くない。日本の場合は、同じく自分のことばかり気になる病的に自己愛が過剰なタイプといっても、傲慢で自分を強く押し出すような誇大的で無神経なタイプではなく、引っ込み思案で神経過敏なタイプが多くなる。

 日本人に多い引っ込み思案で神経過敏なタイプの自己愛過剰には、人からどう思われるかばかりを気にし、人の顔色を窺うあまり自己主張ができず、人から拒否されたり批判されたりすることを極度に恐れるため率直に自分を出せないタイプが多い。人から賞賛されたい気持ちは強いのに、それを表に出せずにうじうじしがちで、自分を抑えすぎる者も少なくない。

 こうした文化的背景に目を向ければ、「自分に満足している」という若者の比率が、なぜ欧米では8割を超え、日本では4割強にしかならないのかがわかるだろう。比率に大きな差があることは、べつに深刻な問題なのではなく、ごく当然のことなのだ。

 欧米人は自信たっぷりに振る舞わないといけないから、「今の自分に満足している」とほとんどの若者が答える。日本では謙虚に振る舞わないといけないから、「今の自分に満足している」と答える若者が半分もいない。それぞれの回答傾向は、属する文化に適応的な心のあらわれとみなすべきだろう。

自己コントロールできる日本人、できないアメリカ人

 欧米人には自分を過大評価する傾向が強くみられ、日本人は謙虚さゆえにそのような傾向はみられないということは、学力に限らず、さまざまな能力や性質に関して当てはまる。ここでもうひとつ、自己コントロール力についてみておきたい。

 自己コントロール力の重要性は、このところ教育界で注目を集めている。

 文章を読解したり既存の知識を引き出して用いたりするのは、勉強をする上で必須の能力であり作業でもあるが、こうした知的活動以外の要因が、じつは勉強ができるようになるかどうかに深く関係することがわかってきた。そこで最近教育界で注目されているのが非認知能力だ。

 非認知能力というのは、自分をやる気にさせる力や忍耐強く物事に取り組む力、集中力、我慢する力、自分の感情をコントロールする力など、学力のような知的能力に直接含まれない能力のことである。その中核となるのが自己コントロール力である。