投資には常に「不確定要素」がつきものだ。一体どうすれば、不運な目に遭わずに投資で成功できるのか? 今回は、「読むと人生が変わる」「『金持ち父さん 貧乏父さん』以来の衝撃の書!」と絶賛されている、全世界40万部突破のベストセラー『JUST KEEP BUYING 自動的に富が増え続ける「お金」と「時間」の法則』(ニック・マジューリ著)を題材に、数々の実績を積み重ねてきた「絶対達成コンサルタント」横山信弘氏が「人材投資のコツ」と「時間投資のコツ」を語る。(構成/ダイヤモンド社・寺田庸二)

【ひどすぎる】入社3ヵ月で50%の新入社員が辞めた! 社長が命じた時代遅れな作業とは?Photo: Adobe Stock

なぜ新入社員は次々退職したのか?

20人の新入社員が入社したのに、3ヵ月でその半数が辞めてしまった――。

こんな事態を受け、ある不動産会社の社長は怒っていた。

「せっかく苦労して採用した新人たちが、次々と去っていくなんて!」

いったい何が原因なのか?
調べてみると、原因は意外にも社長自身が命じた「恒例行事」にあった。

そこで今回は、「人的資本への投資」に関して、“時間投資”の視点から解説する。
社員教育に悩む経営者や人事担当者は、ぜひ最後まで読んでいただきたい。

ポスティング研修で半数が離職した理由

この不動産会社では、入社直後から3ヵ月間、毎日100軒のポスティングを新人に課していた。
社長曰く「ここで反響があったお客様にアプローチして、1年分の商談を確保する」というのが狙いだった。

しかし、辞めた10人の新入社員からは、口々にこんな声が上がった。

「こんなことはアルバイトでもできる」
「なぜ大学を卒業して入社したのに、ポスティングをやらなければならないのか」
「これでは成長できない」

彼らの不満はもっともだった。
入社3ヵ月という貴重な時期に、専門性を身につけるどころか、誰にでもできる単純作業に時間を費やす。これは新入社員の成長意欲を著しく削ぐことにつながった。

問題は「根性論」ではない

「新人のうちは根性が必要だ」

社長はそう主張していた。
確かに、不動産営業にはタフな精神力が要求される。しかし、ポスティングで根性が身につくという理屈には大きな欠陥がある。

(1)目的と手段が一致していない

ポスティングの目的は「チラシを配ること」であり、「根性を鍛えること」ではない。根性を鍛えたいなら、他に効果的な方法はいくらでもある。

(2)創意工夫の余地がない

根性を鍛えるには、困難な状況を自分なりに乗り越える体験が必要だ。
しかし、ポスティングは決められた作業を繰り返すだけで創意工夫の余地がほとんどない。

(3)成果と努力が見えない

100軒まわっても、実際にどれだけの反響があるのか、新入社員には見えない。
努力の成果が見えなければ、やりがいも生まれない。

結局は、「理不尽なことを言われても服従するものだ」「社会人になったら、そういう忍耐力も必要だ」――このようなことを教えたいがためにやっているだけにすぎない。

新入社員にとっての入社3ヵ月は、その後のキャリアを左右する極めて重要な時期だ。

そんな貴重な時間を、外部業者に委託できるポスティング作業に費やすのは、明らかに機会損失だ。外注費をケチって、数百万円の採用コストを無駄にしている。

「即戦力採用」の落とし穴

同じような「時間の無駄遣い」は、中途採用でも起こっている。

ある製造業では、即戦力がほしいという理由で30代後半から40代の技術者ばかりを採用していた。しかし、結果はどうだったか?

・カルチャーフィットせずに早期離職
・残っても期待したパフォーマンスを発揮できない
・既存社員との軋轢が生じる

このような問題が相次いだ。
即戦力のつもりが、逆にチームの生産性を下げる結果となったのだ。

長期的視点での「人材投資戦略」

実はこの会社では、新卒をしっかりと時間をかけて教育するほうが、長期的にはリターン(定着率と活躍の度合い)が大きい。これは後でデータ分析してわかったことだ。

おそらく若い人材ほど、企業文化や価値観に順応しやすいからだろう。
10年、20年という長期的な視点で見れば、中核人材として活躍する可能性が非常に高くなる。

新卒は確かに、即戦力ではない。

しかし、適切な教育を施せば、中途採用者を上回るパフォーマンスを発揮することのほうが多い。
成長余地が大きいというのは、新卒採用の最大のメリットの一つだ。
企業としては、短期的な利益より長期的な視点でコストパフォーマンスを考えるべきだろう。

さらに重要なのは、企業への帰属意識や忠誠心の違いである。
一から育て上げた社員は、会社に対する愛着や責任感が強く、簡単には転職を考えない。
一方、即戦力として招いた中途採用者は、より良い条件があれば転職することも多い。人材流出を防ぐ意味でも、新卒採用・教育は重要な戦略と言える。

時間は二度と戻らない資産

時間は二度と戻らない資産である。
この真理を最も理解している人物の一人が、投資の神様と呼ばれるウォーレン・バフェットだ。

ベストセラー『JUST KEEP BUYING 自動的に富が増え続ける「お金」と「時間」の法則』には、このように書かれてある。

時間は、私たちにとってなによりも重要な資産である

投資の世界では、こう言われる。元本や金利も重要だが、最も大きな力を発揮するのは時間だ、と。これは社員教育にも当てはまる原理だ。

再び『JUST KEEP BUYING 自動的に富が増え続ける「お金」と「時間」の法則』から引用したい。

医師で長寿の専門家であるピーター・アッティアは、2017年、寿命をのばす方法をテーマにした講演で、聴衆に次のように問いかけた。

「この中で、ウォーレン・バフェットと自分の人生を今すぐ交換してもいいという人はいないはずです――たとえ、それによって彼の全財産が手に入るとしても。バフェットも、全財産を失うことと引き替えに20歳に戻るかと尋ねられたら、すぐに『ぜひそうしたい』と言うでしょう」

当時バフェットの年齢は87歳。どんな巨額の資産よりも、時間資産のほうが魅力的だと思う。それが普通の感覚だ。

現在、企業経営において「人的資本経営」が注目を集めている。
これは、人材を単なるコストではなく、価値を創造する資本として捉える考え方だ。とりわけ日本のような少子高齢化が進む国では、限られた人材に対していかに効果的な投資を行うかが企業の命運を分ける。

若者への投資は、企業戦略の根幹に関わる問題だ。じっくりと時間をかけて若い人材を育てることで、その投資は10年後、20年後に大きなリターンとなって戻ってくる。経営者は今こそ、時間投資の視点から人的資本経営を実践すべき時だ。

(本稿は、『JUST KEEP BUYING 自動的に富が増え続ける「お金」と「時間」の法則』に関する書き下ろし特別投稿です)

【執筆者プロフィール】
横山信弘(よこやま・のぶひろ)

企業の現場に入り、営業目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の考案者として知られる。15年間で3000回以上のセミナーや書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。現在YouTubeチャンネル「予材管理大学」が人気を博し、経営者、営業マネジャーが視聴する。『絶対達成する部下の育て方』など「絶対達成」シリーズの著者であり、多くはアジアを中心に翻訳版が発売されている。