そのなかの1人がスマートフォンのSNSアプリで流れ、広く拡散されている動画を示して言った。

「僕らも、こんなことあるよね」

 1つの動画では、アパレルで働く従業員が客に土下座させられていた。

 また別の動画では、コンビニで働く従業員が従業員控室に連れ込まれて土下座させられ、売り物の煙草のカートンボックスを差し出させられていた。宅配便を持って行った配達員が、客がいなかったために戻って再配達のときに、その客にチェーンソーで脅される場面もあった。

「乗り越えて一人前」は時代遅れ
5万人が訴えたカスハラの現実

 実はサービス業で働いている人の多くが、大なり小なり、客からこうした理不尽なクレームを受けた経験があった。逆に「当たり前」にもなってしまっていた。ただSNSの反応をみながら、「これは問題化していいことなのではないか」という気づきが生まれたのだ。

 委員会では、テーマとして考えていくことにして、その上の部会などにその報告をした。ただ、ポジティブな反応ばかりではなかった。そこに参加する委員長らの多くは、理不尽なクレームも含めて「問題を乗り越えられて、波風たてないのが一人前」という意識も根強い世代。「従業員の成長の機会を奪うことになる」という声すらあがった。

 この問題に当初から取り組んだUAゼンセンの常任中央執行委員、波岸孝典氏(流通部門事務局長)は「お客様に非はない、と育ってきたし、こんなことを発信したら逆に企業も組合もバッシングを受けるのではないかという感覚があった」と振り返る。

 波岸さん自身は北海道出身で、1994年に北海道の百貨店の丸井今井(現・三越伊勢丹傘下)に入社。販売業務などに携わった後、労働組合の専従となって委員長を経験し、さらに流通業界を横断的にみる産業別組合で働いてきた。

 転換点になったのは、2017年の接客対応をしている組合員に対しておこなった悪質クレーム(迷惑行為)に関するアンケートの結果だった。省庁との意見交換を通じて、実態を示すデータの必要性を実感し、UAゼンセンが初めて調査したのだ。