流れが大きく変わった
栗山英樹監督の「抗議」
栗山 もう1つ決断に迷ったのは、メキシコ戦の最終回の村上の場面。最初は牧原大成を代打に出してバントをさせるつもりで、守備・走塁担当の城石憲之コーチに「大丈夫だよね、牧原、バントの準備はできているよね?」と聞いたんです。すると普通ならすぐに「はい」と返事をするのに、そのときは、一瞬、間があって「…はい」という感じだったんです。
たぶん城石コーチは、なんらかの根拠があって、村上で勝負したほうがいいと感じていたのでしょうね。ただ、その理由を言うと僕が決断に迷うと躊躇したのだと思うんです。
僕は彼が何を言いたいのかと考えて、結局、そのまま村上を打席に送りました。結果としては、それが勝利に繋がったわけです。あとから聞きましたけれど、城石コーチは牧原がバントを成功させる可能性は低いと見ていたんですね。牧原本人もちょっと不安がっていたそうです。
このように、瞬間瞬間に勝利のヒントが散りばめられていたんです。みんなの思いにすごく感謝しました。
横田 そのメキシコ戦で忘れ難い場面の1つが、7回表にメキシコの選手の盗塁が一度はセーフと判定されながら、栗山監督の抗議でビデオ判定となり、アウトに覆ったところです。あれで気の流れが変わったように思いました。その直後の7回裏に吉田正尚選手が起死回生の同点スリーランホームランを打ちましたよね。
栗山 おっしゃる通り、あそこが起点になって試合の展開が変わりました。僕が常々大事にしているのは、少しでも何か思ったんだったら、できる限りの行動を起こしておかないと神様が許してくれないのではないか、ということなんです。
横田 神様ですか。
栗山 天の意志のようなものと言ってもいいと思うんですが、野球の監督を長くやっていると、どうやっても勝てないと思うときがあるんですね。お前たちの努力の仕方、生きざまは認められないって神様に言われているような感じで、どう手を打っても戦況が動かないんです。