「『なぜ、そう思うの?』は、絶対にNGです」
「なぜなぜ分析」をはじめに「なぜ?」という問いは“論理的に考える”ための「良い質問」だと考えられている。しかし実は「なぜ?」「どうして?」は、致命的な「解釈のズレ」を生み、噛み合わない会話=「空中戦」を作り出してしまう元凶、「最悪の質問」なのだ。
「事実と解釈の違い。これに気づけていない人は、まだ確実に“曇りガラス”の中にいます」――。話題の新刊『「良い質問」を40年磨き続けた対話のプロがたどり着いた「なぜ」と聞かない質問術』では、世界・国内の各地で実践・観察を積み重ねてきた著者による「賢い質問の方法」=事実質問術を紹介している。本書に掲載された衝撃の新事実の中から、今回は「ありがちなNG質問」について紹介する。(構成/ダイヤモンド社・榛村光哲)

【「なぜなぜ分析」】はマジで無意味。40年の対話のプロが断言する“納得の理由”とはPhoto: Adobe Stock

「なぜなぜ分析」がダメな理由

 みなさんは、職場で仕事の話をするとき、どのような言い方をしているでしょうか? 部下とのコミュニケーションに限らずですが、「言い方」は以前よりも一層、厳しく見られる時代になりました。

 そんな中でも、今回紹介したいのが、「なぜなぜ分析」です。

 ビジネス系の質問術では、「なぜ?」と尋ね、それへの答えに対してさらに「なぜ?」「なぜ?」と、5回繰り返して聞いていくべしと教えるものもあります。しかし、相手との関係構築が難しくなるという意味でも、対話手法としては全くオススメできません。特に、問題分析の手法としては、全く見当はずれです。

 今回はこの「なぜなぜ分析」がダメな理由について、考えていきましょう。

「なぜ?」は相手を問い詰める

「なぜを5回」手法では、「なぜ」にさらに「なぜ」をかぶせて聞いていくものです。

 ではここで改めて考えてみてください。もし、あなたが聞かれている側なら、どう感じるでしょう。自分たちの失敗の原因を人前で白状させられ、しかもそれを5回もやれと言うのです。

 これは、上司から「なんでできなかった?」「なんで失敗した?」を連続して詰問されている状況と何ら変わりません。なんとか答えをひねり出せる人もいるかもしれませんが、よほどメンタルの強い人や、やる気のある人でなければ、とてもこういったことはできないでしょう。問い詰められたときに出てくるのは「時間がなかった」「注意不足だった」のような、言い訳じみたものばかりになってしまうでしょう。これは人間の性で、仕方のないことです。

 そもそも、「なぜ質問」で真偽のはっきりしない言い訳をわざわざ聞き出して、何になるのでしょう。何にもなりませんよね。明らかに言い訳とわかることでも、一度口に出してしまうと、なかなか引っ込められないのが人間です。

「力関係の差がある」時は特にNG

 では、「なぜなぜ分析」はどういった時に有効に作用するのでしょうか。それは、「相手が問題分析への強い意欲をすでに持っている」とともに、「聞き手に対する信頼と尊敬があるとき」です。

 例えば相手が企業の経営者で、何が何でも経営を立て直そうと決意し、プライドを捨てて、信頼できる優秀なビジネスコンサルタントに高額な料金を払って依頼した場合などがそれに当たるでしょう。

 そういう状況でないならば、たいがいは心が折れるか、適当に忖度して対応するかのどちらかです。これでは冷静で客観的な問題分析などできるはずがありません。

 高度経済成長期には、国全体にやる気が満ち満ちていました。多少叩かれても簡単にはくじけないという風潮の中で、生み出されたのがこの手法です。その頃は「なぜなぜ分析」は効果的に作用したことでしょう。しかしそのような、いわゆる昭和の時代はとうの昔に終わったはずですよね。

 とりわけ、質問する側とされる側の間に、「力関係が存在する」=対等でない、モチベーションに差がある場合、たとえば上司と部下の場合などはそれが顕著です。知識、情報、経験などに差があり、信頼関係が築かれていない場合、「なぜ質問」は力関係やモチベーションの差を強化するだけの危険な質問として機能する恐れがとても強いのです。

(本記事は『「良い質問」を40年磨き続けた対話のプロがたどり着いた「なぜ」と聞かない質問術』の一部を抜粋・編集・加筆した原稿です)