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M&A仲介業界内では退職者に対して、秘密保持と競業避止義務について、過酷な内容を定めた誓約書に署名を求めることが慣行となっている。大手の一角であるM&A総合研究所は、憲法で保障されている職業選択の自由を制限する恐れのある内容で、平然と運用していた事実も発覚した。そこでダイヤモンド編集部では大手4社に運用状況についてアンケートを実施した。特集『M&A仲介 ダークサイド』の#19では、その結果を公表するとともに、誓約書などを使って退職者をけん制する文化をつくった張本人を明らかにする。(ダイヤモンド編集部副編集長 片田江康男)
はびこる過酷な「退職時誓約書」
強力な退職者へのけん制&萎縮効果
事業承継を目的としたM&Aの必要性が叫ばれ始めたこの10年間で、M&A仲介業界は急成長を遂げた。M&A仲介会社は、売り手企業と買い手企業の間に立ち、交渉や手続きを支援して、M&Aの成立を目指す企業だ。
業界の急成長に合わせて、各社は陣容を整えるべく、金融機関などから大量の人材を採用してきた。しかし、M&A成立へ向けて社員を競わせ、高い目標を達成させるために厳しく管理する社風の企業が多く、なじめずに辞めていく者も多い。人材の出入りが激しいことは、この業界のもう一つの特徴だ。
多くのM&A仲介会社は、退職者による顧客情報や営業秘密の漏えいを防ぐ目的で、秘密保持や同業他社への転職などを禁止する競業避止義務を定めた誓約書に、署名・捺印することを求めている。退職時に誓約書を求めることは金融機関などでは当たり前のことで、それ自体は珍しくはない。ただし、M&A仲介各社の誓約書は、退職者に求める競業避止義務が他業界よりも厳しく、違反した場合の賠償金も年収を優に超える高額だ。
大手の一角であるM&A総研ホールディングス(HD)では、競業避止義務の期間と地理的範囲が無制限の誓約書を、2025年9月まで運用していた。これは複数の弁護士が、憲法で保障されている職業選択の自由を不当に制限する恐れがあると指摘していた。また、賠償金は1億円を超えるケースもあった。
M&A総合研究所(M&A総研HD傘下)の複数の退職者は、会社がこうした過酷な内容の誓約書に署名を求めるのは、本来の目的に加えて、「退職者をけん制し、萎縮させるためだ」と受け止めている。実際、M&A総合研究所からコンサルティング企業に転職した退職者は、「誓約書に書かれた賠償金を請求されるかもしれないと、常にどこかで気になっていた」と話す。
M&A仲介各社は今、退職者にどのような意図と内容で、誓約書への署名を求めているのだろうか。ダイヤモンド編集部は、日本M&Aセンターホールディングス(HD)、M&Aキャピタルパートナーズ、ストライク、M&A総研HD大手4社に対して、誓約書の運用実態を調べるためにアンケートを実施した。
次ページで各社の回答を一挙公開する。さらに、誓約書を使って退職者をけん制する文化をつくった張本人は誰なのかを探った。







