そりゃクイズ王になるわけだ…伊沢拓司の「座右の銘」がメチャクチャ深かった!【東大生が解説】『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の受験マンガ『ドラゴン桜2』を題材に、現役東大生(文科二類)の土田淳真が教育と受験の今を読み解く連載「ドラゴン桜2で学ぶホンネの教育論」。第58回は、「バカ」という言葉が持つ意味について考える。

「知らない」と認識できる範囲は、どこまで?

 東京大学現役合格を目指す天野晃一郎と早瀬菜緒は、勉強合宿で小学校2年生の計算問題に挑む。制限時間内に解き終わらなかった2人は、「バカ」と書かれた紙を自分に貼るように促された。

 実際に教育現場でこのような指導が行われたら大問題だが、というのも「バカ」という言葉が持つマイナスイメージは大きい。悪口の代表例として広く浸透している。

 だが、私はかねてから「バカ」という言葉には、そこまで悪い印象を持っていない。むしろ、「自分を成長させる余地」として肯定的に捉えている。

 高校生のころ、友達が黒板に小さな円を描いて、こう言った。

「俺たちが知っている範囲をこの円の内部だとすると、俺たちが知らないと認識できる範囲は、円周の部分だ」

 そして、さらに一回り大きな円を描くと「俺たちがさらに多くのことを知ると、円は大きくなる。だけど、それに伴って知らないと認識できる範囲も大きくなるんだ」と話した。

 つまり、多くのことを知る、ということは「自分が何を知らないか、を認識できる範囲」が増えることを意味する。よく言われる「無知の知」だ。

 QuizKnock(クイズノック)代表の伊沢拓司氏は、自身の座右の銘として「無知を恥じず、無知に甘えることを恥じる」という言葉をあげている。その貪欲な姿勢が、彼を一流のクイズプレーヤーにしているのだろう。

「バカ」を笑い飛ばした先に見えるもの

漫画ドラゴン桜2 8巻P49『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク

「無知の知」が重要なのは、単にマインドというだけではない。

 自分が知っていることと知らないことを明確に分けることで「ここまでは自信を持って判断できる、これ以上は○○という情報がないからしっかりとした判断ができない」という基準を持つことができる。この判断は、学術領域を超えてさまざまなところで生かされる。

 自分が何について知らないかを知る、この行為を能動的にできる人は少ない。えてして、「自分が知っている範囲、太刀打ちできる範囲」から飛び出すのは怖いからだ。

 その点、大学では「知らないことを知る」という行為を受動的に行うことができる。専門知識を今まさに獲得しようとしている人たちの集まりだから、その知識を得るための場所が用意されている。

 就職予備校と揶揄されている大学も多い中、「自分が何を知らないのか、何を知ることができるのか」を把握する場としての大学には、まだまだ価値があると思う。

 この文脈でさらに強調したいのは、「失敗」との向き合い方だ。私たちはつい、失敗を恥と結びつけてしまう。しかし、失敗とは「自分がどこで間違えたのか」「自分に何が足りないのか」を示すヒントであり、成長への入り口だ。

 むしろ失敗の中にこそ、最も学ぶべきことがある。「バカ」という言葉も、その場で終わるならただの侮辱に過ぎないが、「自分はまだまだできない、だからこそ伸びしろがある」と転換するなら、それは大きな武器になる。

 だから私は、「知らないこと」「できなかったこと」「失敗したこと」を、あえて笑い飛ばすくらいがちょうどいいと思っている。自分を過信せず、謙虚でいることこそが、知を深める第一歩なのだ。

漫画ドラゴン桜2 8巻P50『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク
漫画ドラゴン桜2 8巻P51『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク