成田空港周辺の単線区間の
複線化に約2000億円を投資

 最後が「成田空港周辺の単線区間の複線化」だ。「成田空港周辺」とは成田湯川駅付近から成田空港までの約7.2kmを指す。途中の根古屋信号場で列車の行き違いや待避が可能だが、アクセス特急が長時間停車を強いられるなど、ダイヤ上の大きな制約となっている。そこでこの区間を複線化することで、線路容量を劇的に増加させようというわけだ。

 成田スカイアクセス線は複雑な運行形態を取っている。京成高砂~小室間は北総鉄道が保有・営業する第一種鉄道、小室~印旛日本医大間は千葉ニュータウン鉄道、印旛日本医大~成田空港高速鉄道接続点間は成田高速鉄道アクセス、接続点~成田空港間は成田空港高速鉄道が施設を保有する第三種鉄道事業で、京成は各社に使用料を支払って成田スカイアクセス線を運行する第二種鉄道事業者、つまり「上下分離方式」だ。

 国交省の関係団体である一般財団法人運輸総合研究所が2022年に公表した「成田空港の鉄道アクセス改善に関する調査研究」は、接続点~成田空港間の増線を既設線の北側か南側か、また、京成のみ複線化するか、JRも複線化するかの4パターンで検討している。

 いずれも設計、用地買収を含む各種手続き完了後の工期を5年と想定。概算工事費(税抜き)は、京成のみ複線案は700億~1100億円、JRも含む場合は900億~1400億円とした。この試算は『新しい成田空港』構想検討会の「とりまとめ2.0」と、京成の「D2プラン」にも引き継がれている。

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 上下分離方式は、国や自治体の公的資金を活用して設備を整備・保有することで、事業者のリスクを軽減させる効果がある。前掲「今後見込まれる投資について」は、複線化事業を2030年代後半まで2000億円程度と概算している。事業スキームや具体的な事業内容は未定としているが、上記第三種鉄道事業者との連携や、航空関係予算の活用が課題となるだろう。

 成田空港会社は2024年6月、3つに分かれている旅客ターミナルビルを2030年代半ばまでに移設、集約する構想を発表している。それに伴い空港駅の移設も必要になるため、次期スカイライナー投入と複線化が完了次第、線路の切り替えを含む大規模な工事が始まる見込みだ。

 人手不足やインフレが進む中、成田空港の拡張工事が予定通りに進むかは不透明だ。一方で、今のペースで訪日外国人旅行者が増えれば早晩、成田空港はパンクする。今後10年は成田空港、そして京成にとって開港以来の大きな転機となるだろう。