「学習することを学習する」力が大事

名和先生が次々に執筆される本を読んでいると、先生が自己革新を怠らず、たえず「シンカ」していることがよくわかります。最後に、自己革新と「シンカ」を目指すビジネスパーソンにメッセージをお願いします。

名和私は「変身」ではなく、「変態」(メタモルフォーゼ)を目指そうと言っているのですが、日本は過去30年ほどの間、アメリカ流の経営を真似る「コスプレ」をやりすぎました。コスプレで変身したつもりになっても、中身は変わっていません。

蝶が卵から幼虫、サナギ、そして成虫へと大きく姿を変えるように、体の構造や生態がまったく変わるのが変態です。変態は単なる借り物やかぶり物ではなくて、内発的なものであり、秘められた可能性を開花させるもの。それが本当の進化です。最初は模倣でいいのですが、そこから自己否定、自己発見、自己超越と進みながら、自分の可能性を解き放っていく。

そのためにも、アウトプットはとても大事で、いったん自分の中のものをすべて出し切ることで、その先が見えてくる。人の可能性や進化は、立ち止まりさえしなければ終わりはありません。つまり、常に「未」の状態で、「完」はない。芸術や武道における求道精神と同じです。

ちょっと禅問答みたいですけど、「学習することを学習する」力が、すごく大事だと思います。学ぶべきことは時とともに常に変わりますが、その力があれば常に新しいものを取り入れ、自分の中で咀嚼し、進化することができる。学び続けられる人は、可能性だらけだと思います。

学び続けられる人は、可能性だらけ。人間の進化に「完」はない元電通公共関係顧問(北京)有限公司CEOの鄭燕氏(一番左)と名和高司氏(左から2番目)。2019年に名和氏が講演のために中国・広州を訪れた際の一コマ(写真は鄭氏提供)。

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京都先端科学大学 教授|一橋ビジネススクール 客員教授
名和高司 氏

東京大学法学部卒、ハーバード・ビジネス・スクール修士(ベーカー・スカラー授与)。三菱商事を経て、マッキンゼー・アンド・カンパニーにてディレクターとして約20年間、コンサルティングに従事。2010年より一橋ビジネススクール客員教授、2021年より京都先端科学大学教授。ファーストリテイリング、味の素、デンソー、SOMPOホールディングスなどの社外取締役、および朝日新聞社の社外監査役を歴任。企業および経営者のシニアアドバイザーも務める。

 

◉構成・まとめ:田原 寛