学び続けられる人は、可能性だらけ。人間の進化に「完」はない

ほぼ半年に1冊のペースで新しい著作を出し続けるという驚異の知的生産力を発揮する京都先端科学大学教授(一橋大学ビジネススクール客員教授)の名和高司氏。前編では、超多忙な中でインプットとアウトプットを同時進行させる「知」の流儀について語ってもらった。後編では、常に進化し、新たな知を生み出し続ける思考の作法に迫る。

前編に続いて、元電通公共関係顧問(北京)有限公司CEOの鄭燕氏が、インタビュアーを務めた。

言葉の本質を見極めると、発想の自由度が広がる

名和先生の著書を読むと、言葉をとても大切にされていると感じます。名和流の思考法と言葉の関係について教えてください。

名和新約聖書に「はじめに言葉ありき」と述べられていますが、やはり言葉が発想を生み、思想をつくると思うので、言葉をいい加減に使わないのが私の知の作法の一つです。言葉を鵜呑みにせず、自分の世界を組み立てている道具をあらためて点検する。つまり、言葉の本質や語源を知ることから始めると、いろいろな気づきがあり、思考が深まります。

たとえば、漢和辞典を調べると、「シン」と読む漢字は120以上あります。漢字は表意文字ですから、それぞれに意味がある。私が書いた『シン日本流経営』(ダイヤモンド社)では、「シン」を多段活用し、「深化」「新化」「心化」「身化」「信化」「真化」「進化」「津化」という8つの日本流の型を提示しています。進化という言葉の原点に立ち返る中で、だんだん考えが深まっていったんです。

学び続けられる人は、可能性だらけ。人間の進化に「完」はない「シンカ」のマンダラ (名和高司著『シン日本流経営』ダイヤモンド社より)
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少し脱線するかもしれませんが、最初に本を書き始めた頃、忙しかったせいもあり、私がしゃべったことをライターさんにまとめてもらったことがあります。そうすると楽なんですけれども、考えが深まらないんですよね。ですから、いまは必ず自分で書いています。「名和さん、AIに書かせたほうが速いですよ」とよく言われるのですが、自分で書くプロセスがあるから深みや味が出てくる。リサーチにはAIを使いますけど、書いたり、講演や授業で話したりするアウトプットのプロセスに実は重要なインプットの機会がたくさんあるので、自分でやらないともったいないですね。

自分流、自己発想にこだわっていらっしゃるんですね。

名和言葉の本質にこだわるというと、杓子定規な定義にこだわっていると思われるかもしれませんがまったく逆で、本質を見極めることで思考の軸が生まれ、発想の自由度が広がります。軸足を起点に360度回転するピボットと同じですね。

発想を広げるだけだと、とっ散らかってしまうので、本質を見抜いて広げた後に、関係性を考える。そうすることで、思考の体系がまとまります。それも一つの作法です。

シン日本流経営と「シン」の8段活用の関係を表した「シンカのマンダラ」が、まさにそれですよね。

名和マンダラ(曼荼羅)は、弘法大師・空海が中国で学んだ密教の宇宙観を視覚的に表現したもので、空海はそれを自分流、日本流に再編集しています。

松岡正剛さんは、日本流の編集技法を「あわせ・かさね」といった言葉で表現しましたが、私は「ずらし・つなぎ」を付け加えました。

「あわせ・かさね」は、別々のもの、異質なもの同士を対置するのではなく、合わせたり、重ねたりすることで、奥ゆかしさや味わいを生むもの。だから、0か1かのデジタルじゃないんですね。