稀に見る解体の成功は
修繕を怠った偶然の産物

 なぜ「マンション苗場」は解体に成功したのだろうか。

 まず、このマンションでは管理組合が機能していない期間が一定期間存在していたが、その間も数名の区分所有者は修繕積立金の納入を続けていた。それは本来大規模修繕に回すべきだった積立金なのだが、実際には何の修繕も行われず、残されていた修繕積立金をそのまま解体費用に充当することができた。

 苗場のマンション価格の現状を考えれば、仮にマンション苗場が大規模修繕を行ったところで資産価値の上昇は考えられない。ほぼ全戸のオーナーが部屋を放置し、修繕の機運も高まらず、結果として修繕費用をほとんど投じていなかったのが逆に功を奏したともいえる。

 また、マンション苗場の敷地は国道17号に面した平坦地にあり、更地にも需要が存在したことも幸運な材料だった。

国道17号線に面したマンション苗場の跡地。現在は近隣の事業者が所有している国道17号線に面したマンション苗場の跡地。現在は近隣の事業者が所有している

 こうしてみると、他のマンションが必ずしもマンション苗場と同様の好条件にあるわけではない。

 マンション苗場はわずか31戸の小規模なマンションだが、それでも所在不明となった区分所有者の追跡に5年の歳月を費やしたのである。その中には解散した法人名義の部屋もあり、特にその居室の権利者の追跡が困難であったと、先の報道記事で述べられている。

 今も苗場に残る他のマンションには、300~400戸にも及ぶ大規模なものもある。管理組合の懐事情は各マンションによって異なるだろうが、基本的には現在も利用されているので、その維持管理や修繕で費用負担が生じているはずである。

 またリゾートマンションは眺望性を優先してか、傾斜地に建築されているものも多く、必ずしも幹線道路に面しているわけではない。マンション苗場のような幸運な事例が、そのまま他のマンションで再現できるとは限らない。

DIY修繕で凌ぐしかない
廃墟に近いマンション

 最悪の選択肢は、大規模修繕を行えるほどの貯えもなければ、マンションそのものにも資産性もなく、なおかつ解体を視野に入れることもないまま、場当たり的な応急処置で使い続けることだろう。

 実は越後湯沢エリアには、僕が知る限り1か所、大半の居室が廃墟のような様相を呈しながらも、今も最低限の応急処置の修繕のみで利用され続けている古いリゾートマンションがある。