
NTTドコモが住信SBIネット銀行を買収する。SBIホールディングス(SBIHD)の北尾吉孝会長兼社長との交渉は一時決裂したが、ドコモの親会社であるNTTがSBIHDに出資する巨大提携の枠組みで合意した。紆余曲折を経た買収交渉の内実を探ると、百戦錬磨の北尾会長に翻弄されるNTTグループの姿があった。両グループの提携は波乱含みでスタートする。(ダイヤモンド編集部 村井令二)
海千山千の北尾氏に翻弄されるNTT
ドコモ経済圏を確立するための課題とは?
「最良のパートナーだ」――。銀行業への参入の意向を繰り返し表明してきたNTTドコモの前田義晃社長は5月29日の記者会見で、住信SBIネット銀行を子会社化し、悲願の銀行業参入を達成することに胸を張った。
住信SBIは、SBIホールディングス(HD)と三井住友信託銀行がそれぞれ34.19%を出資する複雑な資本構成だ。ドコモは株式公開買い付け(TOB)で一般株主の保有株を買い取って非上場化した上で、SBIHDの保有株を買い、11月ごろをめどに65.81%の株式保有を目指す。
携帯電話の事業収入が頭打ちとなっている通信会社では、金融・決済事業を核とする経済圏をいかに拡大するかという競争が熾烈化している。競合するKDDI、ソフトバンク、楽天グループが有力な銀行を持つ中で、唯一銀行事業を持たないドコモにとって、ネット専業銀行として楽天銀行に次ぐ国内2位の預金残高を持つ住信SBIはまさに「大本命」の買収候補だった。
ドコモがSBIHDから保有株を買い取る協議を本格化したのは24年8月のこと。だが、日本有数の金融グループを率いる百戦錬磨の北尾吉孝会長兼社長を相手にした交渉は一筋縄ではいかなかった。
交渉を知る関係者によると、北尾氏は「住信SBIを単純に売却することは全く考えていなかった」といい、ドコモの親会社のNTTを交渉の場に引きずり出した。ぎりぎりの協議をした結果、今年2月に交渉は一時決裂。最後はNTTグループが北尾氏の要求を受け入れる格好で最終決着した。
結果的に、NTTは、ドコモが住信SBIを買収するのと引き換えに、SBIHDの第三者割当増資を引き受けて約1108億円を出資することになった。
次ページでは、ドコモはどのように北尾氏との交渉で合意を勝ち取ったのかを明らかにする。元国営企業のNTTと、巨大金融グループを育て上げた北尾氏がリーダーシップをとるSBIは「水と油」と呼ばれるほど社風が異なる。巨大提携が抱える課題にも迫る。