同僚であるAIの管理者としての人間の役割
AIが業務の主体になると、チーム構成も再定義される必要がある。社員一人ひとりが自らのAIアシスタントを持ち、そのAI同士が協調して業務を進めていくことが一般的になる。同僚のAIが自分の仕事仲間になる世界がすぐそこまで来ている。
たとえば、マーケティング、法務、財務などの各部門が、それぞれのニーズに応じたAIを独自に導入・開発し、プロジェクト単位でこれらのAIを連携させて業務を推進する。マーケティングAIが市場動向を分析し、法務AIが契約リスクをチェックし、財務AIが資金計画を立てる。このように専門特化したAIのチームが、短時間で高度な判断を下すことが可能になる。
AIが顧客対応の前線に立つことも増える。チャットボットやFAQだけでなく、複雑な問い合わせへの対応や顧客の意図を汲み取った提案も担うようになる。こうした場面では、人間は「責任者」としてAIを管理する立場に立つ。
マネジメントのあり方も変わる。従来のようにマネージャーが目標を設定し、メンバーを直接指導する形ではなく、AIの行動を制御・最適化する役割が求められる。人間はAIに設定するルールやパラメータを定め、最終的な成果を評価・調整する責任を担うことになる。
この構造は、技術者が機械をチューニングしながら運用するような形に近い。メンバーは人間ではなくAIであり、その働きぶりを見守り、必要に応じて調整することが人間の役割の一つとなる。
人間中心からシステム中心へ
企業の組織運営も「人間中心」から「システム中心」へと移行していく。システム中心とは、業務の遂行や意思決定がシステムを中核に据えて行われる構造であり、データを根拠にして環境や状況に応じて自動的に判断が下される体制を指す。たとえば、物流では販売データや在庫状況をAIが常時監視し、補充計画や配送ルートの最適化を自律的に行う。市場の変化や需要の急増にもリアルタイムで対応できるようになる。
このような組織では、人間の役割は単なるオペレーターではなく、システムの設定・監視・改善提案といった上流の業務にシフトしていく。そこでは、AIを使いこなすだけでなく、AIの動作原理を理解し、運用上の調整を担うスキルが不可欠となる。
また、AIがマネージャーやアドバイザーの役割を担うことで、従来のピラミッド型組織は徐々にフラット化していく。意思決定が迅速かつ客観的になり、組織全体の効率は格段に高まる。社員同士の「横のつながり」にも変化が現れ、個々人は独立して働きながらも、AIを通じて連携する関係になる。人間同士で仕事の進め方や業務のノウハウを教え合う機会は減り、AIに直接問い合わせることで問題を解決するようになる。
業務の引き継ぎや連携も、人から人へではなく、システムからシステムへと自動的に行われる構造に移行する。このように、AIやシステムが業務のほとんどを自動化し始めると、これまで人間を前提に設計されていた部署や業務プロセスは見直しを迫られることになる。
たとえば、Googleの検索エンジンのように、巨大な中核システムを中心に社員がその周囲で働くという構造が、あらゆる業界に広がっていくだろう。
ビジネスパーソンに求められるAI時代のスキル
こうしたAIを中核とした時代において、今後、求められるのはAIを「使いこなす」人材である。単なる操作スキルではなく、AIの限界を理解し、応用・最適化し、生産性や創造性を飛躍的に引き上げるスキルが求められる。
さらに重要なのは、AIを「創り出す」人材である。単にプログラムを書く技術者を指すのではない。AIを開発して、新しい業務やビジネスモデルを創出する人材のことである。それには、深い業務知識とビジネスへの洞察が必要になる。たとえば、営業部門のベテラン社員が自らの経験とスキルをもとにAIを設計し、業務に組み込んでいく。現場の知見を直接システムに反映することで、より的確なAIツールが生まれる。
ノーコード・ローコードのプラットフォームが普及するなか、プログラミングの知識がなくてもAIやシステムを構築し、業務プロセスを自動化できる環境が整ってきている。AIを創り出すスキルは、これからのビジネスパーソンにとっての必須の能力であり、そのスキルの有無が組織や個人の競争優位性を左右する時代が目前に迫っている。
Ridgelinez株式会社 上席執行役員 Partner, Business Science Practice Leader
流通業、製造業におけるSCM改革、業務改革、IT戦略コンサル