母の“言わない優しさ”に
気づいていない嵩
言いたいことを言うのは嵩である。「僕は戦争が大っ嫌いです」と座間先生(山寺宏一)に力を込めて言う。さすがの先生も「非国民め」と注意(本心でないのは伝わってくる)。
さらに、はっきりしているのは、登美子(松嶋菜々子)だ。
赤紙が来た嵩が登美子にも別れを言うためカフェで会うことになり(座間先生も同席する)、そのとき登美子は「(嵩は)戦争なんて無理に決まっているでしょう」とはっきり言うのだ。
母親だから、子どもが兵隊に向いていないことはよくわかるのだと。
それに対して、嵩は、これから戦争に行く息子に向かってもっとほかに言い方があるだろうと腹を立てる。言いたいことしか言わず、自分勝手で息子を傷つける天才だと苛立つ嵩だが、登美子は立派に戦いなさいとは言わなかったことに気づけていない。
心も体も弱い嵩を彼女なりに心配しているのだと思うが、その真意は伝わらない。実に残念である。ここもまた、第48回の次郎とのぶのようで、お互いの思いがうまく伝わっていないのだ。
あまりに悲しい母と息子のすれ違いは、座間先生が救ってくれる。登美子に心惹かれた座間は、嵩の義父になってもいいようなことを言いだす。それを嵩がそっと否定する。母は3度目の再婚をしているから無理だと。
座間の哀しいひとり相撲のおかげで、少し楽になれた。そんな座間を演じた山寺宏一のインタビューも併せてお読みいただきたい。
