海外展開のためにも不可欠なAI活用
生成AIを含むAI技術の活用にもニトリHDは積極的だ。社内向けには、外部の生成AIモデルをカスタマイズして独自のチャットボットを開発。同社独自の業務マニュアルや商品情報を読み込ませて、社員がチャット形式で必要な情報を即座に検索できるようにした。現在は社員向けのツールとしているが、今後は操作性をよりシンプルに洗練させ、各店舗のパート従業員にも利用を促す方針だ。
顧客対応や社内問い合わせ対応にもAIを導入する。問い合わせに対応する際のひな型をAIで生成し、担当者の負担を軽減することが狙いだ。またコールセンターも電話中心からメール・チャット中心の「コンタクトセンター」に移行する。目下の課題はAIによる自動応答の精度をさらに高めること。武井CIOは「最終的に、問い合わせの80〜90%をAIで対応できるようにしたい」と語る。実際にAIが1次対応をすることで、オペレーターが対応しなければならない電話件数が減り、全社的な生産性向上につながっているという。この効率化によって、オペレーターは「人にしかできない」オンラインでの接客販売対応等を拡大できるようになり、新たなサービス提案につなげている。
一方、情報システム部門の開発案件では、機械学習や数理最適化などAI技術を駆使したプロジェクトにも注力している。例えば在庫管理やサプライチェーンの最適化など、AIによる業務効率化がコスト削減に貢献するからだ。ニトリHDは商品の企画開発から販売までを自社で手掛けており、業務全体に一貫したAIデータ分析を行うことで各所の業務最適化に大きな効果がもたらされる。
店内カメラ映像から顧客の購入意欲を検知して店員に通知する実証実験や、万引き防止AIの開発など先端技術の導入検証にも余念がない。武井CIOは「海外は基となるデータや技能、人材が不足している分、日本以上にAIの導入を積極的に進める必要がある」と述べ、海外展開においてもAI活用が重要なテーマになるとする。
社内に優秀なデジタル人材を持つことが企業を強くする
武井CIOはDX人材に不可欠な資質として、「業務を複雑化するのではなく、よりシンプルに変えようとする視点」を挙げる。複雑な業務フローをそのままデジタル化すれば、管理がかえって困難になる。さらに、グローバル展開を加速するニトリHDにおいて、店舗運営スキルを標準化する上でも、従来の業務フローをさらに簡素化したり、大胆にシステムを効率化したりするアプローチが欠かせない。武井CIOは今後、「使えるところではAIを使い倒す」とし、最新技術を貪欲に採用する姿勢もDX人材には欠かせないと力説する。

日本では、豊富な知識を持つITエキスパートがSIer(システム開発や運用を請け負う企業)に勤めていることが多く、事業会社がIT人材を擁するケースは少ない。武井CIOは「日本の企業が強くなるためには、社内にITやデジタル技術を担う人材を持つべき」と述べる。「外部任せで、自前でシステムを評価できる目を持たないと、最適なDXは実現できない」。
ニトリHDにおいては、元より強みであったIT内製文化を発展させたDX推進体制、野心的な目標達成のためにはAIを含むデジタル推進が不可欠という経営層の認識が、業務改革に直結するデジタル人材育成とデジタル推進体制構築を可能にしているといえる。同社のデジタル人材戦略は、日本企業における一つのモデルケースになるだろう。