「管理職はコスパ悪い」「リーダーは損」な世の中で、校長先生が言うのをやめたNGワード海陽学園海陽中等教育学校 西村英明校長

塾業界30年以上のベテランであり、神奈川県の中学受験国語塾「中学受験PREX」の渋田隆之塾長と、企業が設立主体となり、全寮制で学力だけに偏らない特色ある教育を行う海陽学園海陽中等教育学校の西村英明校長が対談。前後編の前編では海陽学園で行われている実際の教育内容を詳しく聞いた。目先の大学進学ではなく、どんな「社会人」になる子どもを育てるのか、という長期視点での教育とは。(国語専門塾の中学受験PREX代表、教育コンサルタント・学習アドバイザー 渋田隆之、構成/ライター 奥田由意)

全寮制で学力以外の
「ものさし」ができる

渋田隆之先生(以下、渋田) 海陽学園は全寮制ですね。その狙いを教えて下さい。

西村英明校長(以下、西村) 海陽学園は、学校だけでは将来の日本を牽引するリーダーを育てることができないという危機感から、トヨタ自動車、東海旅客鉄道(JR東海)、中部電力の3企業が母体となって生まれました。家庭や地域社会という場も含めた教育機関を作る必要があるという思いから通学は一切認めず、全寮制を採用しています。

渋田 ハウスマスターやフロアマスターという独自の制度がありますね。

西村 はい。他の寮がある学校と全く違うのは、寮を学校とは別のスタッフで運営している点です。60人に1人の割合で「ハウスマスター」というお父さん役が、さらに20人に1人「フロアマスター」という企業から派遣された若手社員がお兄さん役としてつきます。

 実は私は初代ハウスマスターを務めました。教員ではないスタッフが、社会で活躍する力を身につけるために共同生活を支援しているのです。

渋田 なぜ学校の延長として寮を設けるのではなく、敢えて分けているのでしょうか。

西村 分けているというより、寮も含めて学校なのです。言うまでもないことですが、社会に出てから必要になるのは、学力だけではありません。いわゆる学力以外の非認知能力は、本来、家庭や学校以外でのいろんな活動を通して身に付けるものです。

 学校での問題解決には正解がありますが、寮生活での問題解決には答えがない。例えば、洗濯機が60人に8台しかないとき、どうやったら一日でみんなの洗濯物をスムーズに回せるかを考える。メンバーによって洗濯量も違うでしょうし、運動部が多ければ全然違う運用になるでしょう。失敗を繰り返しながら運用を工夫していく。

 また、人間関係でも、寮のメンバーに苦手な人や嫌いな人がいたとしても、会わないわけにはいきません。そういうことも含め、集団生活の中では、学校の授業では教えられないことを補完的に学んでいくのです。