社内でそう評価されていた男は未経験ながら受託業務に関する知識やコロナ対策などを勉強。営業努力も実ってか、支店は東大阪市とワクチン接種に関する電話対応業務を請け負う契約を結んだ。

 厳しい環境下で数億円の事業をつかんだ支店は社内表彰を受けた。

 2021年3月、コールセンターが開設され、男は実務を担う再委託先を監督する立場となった。あるとき、センターを視察していた男は問い合わせの少ない曜日や時間帯があることに気がつく。

「もっと効率的にやらないと」。

 再委託先からも、オペレーターの人数を減らしても業務に支障は出ないだろうと聞かされた。

深刻な問題にならないだろう
と安易に考えていた

 この「合理化」の過程で不正の沼にはまった。オペレーターの人数を最大で約半分にまで減らしたが、市側に伝えていなかった。市から契約通りの業務委託費を受け取り、再委託先に支払う経費を抑えられれば差額分は利益として上積みできる。

 無論、正当なビジネスではないが、営業の第一線で結果を追い求めてきた男にとっては経費削減のつもりだったのかもしれない。社会全体が大混乱に陥っている中、深刻な問題にならないだろうという安易な考えも支店内に通底していた。

 男は当時の支店長(55)と副支店長(59)にも伝えていたが、ふたりとも「どこもやっている」「ばれなきゃ大丈夫」などと言うばかりで止めようとしなかった。

 甘い見立ては外れた。

「契約内容と相違ないか確認させてください」。不正が常態化していた23年2月、市の担当者から支店に連絡が入り、コールセンターの出勤簿の確認を求められた。

 直前に人材サービス大手が自治体からの受託業務で10億円以上の過大請求があったことを公表していた。

 慌てた元支店長らは、あろうことか再委託先に虚偽の出勤簿を作成するよう要請した。契約通りに業務を実施したと取り繕おうとしたが、市のさらなる追及で不正が発覚。