「相手はカネだと思え。同情はいらない」日本郵政グループ社員らが暴露する悪徳保険営業の手法写真はイメージです Photo:PIXTA

日本郵政グループで起きていた詐欺まがいの保険営業の実態を調べていた西日本新聞の宮崎拓朗記者。取材を進めるなかで出会ったのは、保険営業で高い実績を挙げていた男性。「郵便局で何が起きているのか知ってほしい」と口を開いた男性は、営業時に使われていた悪どい手法の数々を暴露していく――。本稿は、宮崎拓朗『ブラック郵便局』(新潮社)の一部を抜粋・編集したものです。

営業成績優秀者には
海外旅行特典まで

 筆者が日本郵政グループの保険営業についての取材を続けていた2019年、関東地方の郵便局員から1本の動画が送られてきた。東京のある郵便局が、保険営業で高い実績を挙げたことを祝うために開いた祝賀会の様子だという。

 壇上に立つのは若い男性。全国でも指折りの実力がある外回りの営業マンなのだそうだ。動画の中で、男性は、上司を「チンピラみたいな本部長」と呼んで会場の笑いを誘いながら、「多大なるご支援ありがとうございました」とスピーチをしている。

 刈り上げた頭髪、両手を腰に当てながら話す身のこなしは、郵便局員のイメージとはかけ離れていた。

 傍らには、シャンパンタワー用に積み上げられたグラス。背景に「2019年度○○郵便局 赤道突破祝賀会」と書かれた横断幕が掲げられている。「赤道突破」とは、上半期の目標達成を表す隠語だ。

 動画を送ってくれた局員は「外回りの局員にとっては数字が全て。実績さえたたき出せば、ヒーローのようにもてはやされるんです」と話した。

 外回り担当の局員は「渉外社員」と呼ばれる。全国に1万数千人おり、約1100カ所の大型郵便局の「金融渉外部」に所属している。

 私は、2018年度の、全国の渉外社員の営業成績を記した順位表を入手した。

 全国トップの東京の渉外社員の保険販売実績は、月額保険料に換算して約3100万円。当時、1人当たりの平均的な営業ノルマは300万円と聞いていたから、1人でその10倍を稼いだことになる。月額1万円の保険料の契約なら、月に約260本、1日当たり9本近くも取った計算だ。

 渉外社員は、契約を取るたびに、給料とは別に営業手当を支給される。成績上位者は、その額が年間1000万円以上。「ダイヤモンド優績者」「ゴールド優績者」などと格付けされて表彰を受け、食事会や海外旅行などでもてなされるという。

バリバリ働いていた
渉外社員の証言

 彼らはどんな営業をしているのだろう。ノルマの厳しさを訴える局員とは何人も知り合ったが、高い営業実績の渉外社員に出会うのは難しかった。つてをたどって電話をかけたり、自宅を訪ねたりしても、取材を断られる日が続いた。

 思案に暮れていると、ある地方都市の郵便局に勤めている渉外社員の男性から連絡があった。

「郵便局で何が起きているのか知ってほしい。しっかり聞いてくれるのでしたら、お話しします」