男は元支店長、元副支店長とともに2023年6月、詐欺容疑で大阪府警に逮捕された。

判決では犯行の動機に
同情的な見方も

 コロナ禍で多発した支援制度や補助金を巡る不正。

 従業員の休業手当を事業者に助成する「雇用調整助成金」の不正受給額は500億円以上に上った。特にダメージの大きかった業界で目立ち、東京商工リサーチが800社弱を対象にした調査では半数近くを旅行業を含む「サービス業・飲食業など」が占めた。

「詐欺罪になると思わなかった」「会社の先行きが分からず何とかしなければと思った」。事件後に懲戒解雇された3人は公判で口々に反省を述べた。

 いくら会社のためと主張しても不正がもたらすのは不利益だ。会社は被害弁済の対応に追われた。3人は2024年3月、約2億2000万円を水増し請求したとして大阪地裁でいずれも懲役3年、執行猶予5年の有罪判決を言い渡された。

 判決は一方で、個人的な利得目的でなかった動機に同情的な見方も示した。

「不正を是認する企業風土が犯行に少なからず影響していると認められ、会社のための犯行という側面が強い」と指摘。実際に事件後の調査で、近ツーは最大34自治体で計6億円以上を水増ししていたことが判明し、静岡市の支店でも社員が逮捕されて執行猶予付き有罪判決を受けている。

 当時の社長は引責辞任した。

 1人ひとりの順法意識が不可欠なのはいうまでもないが、平時と異なる状況下では、真面目に働いてきた会社員が良からぬ誘惑に駆られることもあるかもしれない。

 そのとき自分の会社はブレーキをかけられる組織なのか。

 危機や混乱のさなかこそ、ガバナンス(企業統治)とコンプライアンス(法令順守)が組織に根付いているのかが問われる。

転職先への“手土産”で
古巣の営業秘密を持ち出し

 2020年9月下旬、神奈川県内のカフェにカッパ・クリエイトの元社長の姿があった。

 このときは同社に入社する直前の、つかの間の有給休暇。取締役を務めていた古巣「はま寿司」の旧知の部下と落ち合い、会社に貸与された業務用のパソコン画面をにらんでいた。