退職を告げた際に返却を求められたパソコンは、「今日中は難しい」などとはぐらかし、手元に残し続けていた。カフェのWi-Fiにつなぎ、部下の助けを得ながら端末に保存してあったデータをファイル転送サービスにアップ。
後日、部下がこのデータをUSBメモリーに複製し、元社長に手渡した。
回転ずし業界はコストパフォーマンスがカギを握る。ネタの原価率や仕入れ価格は枢要な情報だ。元社長は現場が取引先と交渉するなどして蓄積したこれらを、新天地への“手土産”にしようとした。
情報は転職後、カッパ社の元商品部長に共有され、同社の原価率と比べた表が作られた。
データは不正な持ち出しや使用が禁止されている「営業秘密」に当たるとされ、元社長は逮捕、起訴された。公判の被告人質問で「これぐらいいいだろう」と、甘く考えていたと明かした。
「(カッパ社の)社員になめられてはいけないと思った。『この人すごい』と思わせたかった」。持ち出した動機については、そう説明した。
転職から1カ月後に副社長のポストも約束されていた。「いち早く言うことを聞いてもらう必要があった」と当時の焦りを振り返った。
新卒入社から22年間、外食産業一筋で生きてきた。30代で子会社のファミレスチェーン社長に就いた。
「実力」か「おごり」か
一致しない自身と周囲の評価
弁護側は公判で「人脈やコネに頼らず、自身の実力で幹部になり、売り上げ向上に貢献した」と功績を強調。別の幹部から因縁をつけられたのを機に、社内での自身のキャリアに見切りを付け、転職せざるを得なくなったとした。
ところが、当の古巣での聞こえは取材ではいくぶん異なった。「出世は早かったけど、優秀と評価されていたとは思わない」。前職での仕事ぶりを知る関係者は、そう突き放す。
「古株で発言力はあったが、社内の了承を得ないまま物事を進める強引さもあった」といい、幹部からの「因縁」もこうした評価の結果にすぎないと見る。