
日本人の朝のはじまりに寄り添ってきた朝ドラこと連続テレビ小説。その歴史は1961年から64年間にも及びます。毎日、15分、泣いたり笑ったり憤ったり、ドラマの登場人物のエネルギーが朝ご飯のようになる。そんな朝ドラを毎週月から金曜までチェックし、当日の感想や情報をお届けします。朝ドラに関する著書を2冊上梓し、レビューを10年続けてきた著者による「見なくてもわかる、読んだらもっとドラマが見たくなる」そんな連載です。本日は、第52回(2025年6月10日放送)の「あんぱん」レビューです。(ライター 木俣 冬)
別人のような健太郎(高橋文哉)に
「ワッサン」を聞かせてみたら……?
「新兵、たるんでるぞ立て」
健太郎(高橋文哉)が別人のような野太い声で現れた。
「どうしたちゃったんだよ」
嵩(北村匠海)は動揺しながら「ワッサン」を歌い始める。
すると無表情だった健太郎は、魔法が解けたように以前の笑顔と声が戻った。
福岡出身の健太郎だから小倉に配属されていたのだ。炊事班で苦労しているという。炊事場はまるで戦場だと。もしかして第51回のカレーライスは健太郎が調理したものだったのかも?
それにしても、コン太(櫻井健人)に次いで健太郎。軍隊でこんなに旧知の人に会うものなのだろうか、軍隊の世界は狭いという疑問はさておき。
「軍隊はがんばらんやつには死ぬよりつらかよ。がんばればそれなりによかとこばい」
そう言って去っていく健太郎を見送りながら、嵩は「たくましくなったな」と感じるのだった。
こうして過酷な日々に安らぎが生まれた。時々会って、おしゃべりするように。八木上等兵(妻夫木聡)の情報についても健太郎から聞く。八木は大卒のインテリだが、幹部候補生の試験を受けないため、階級は上等兵。金鵄勲章(武功をたたえるもの)を持っているとか特務機関から来たとか噂もいろいろ。