叫ばず、殴らず、ただ「いい声」で勝つ男――「がんばれない嵩」の静かすぎる逆転劇【あんぱん第52回レビュー】

暴力描写ばかりにならないよう
演出に気遣いが感じられる

 戦場のリアルを描こうと取り組んでいるなかで、暴力描写ばかりにならないような気遣いも感じる。声のこともそうだし、八木や島など誰かが見ていてくれることもそう。何も言わない八木が知恵を使って、嵩を暴力から離れた場所に置こうとしているのもそうだと感じる。

 そして、馬。

 試験に受からないと、馬場たちからまたひどい目に遭う。そもそも嵩は体力もなく不器用なうえ、勉強もできなかった。『軍人勅諭』はかろうじて覚えられたが、試験に受かるとは思えない。そんなプレッシャーのなか、厩舎の番をしながら勉強することにした嵩に健太郎があんぱんの差し入れを持ってくる。出た、あんぱん!

 そして健太郎は「馬ん抱きついて寝よったらぬくかばい」と言う。

 生き物がいることで場面が温かく見える。

 やさしい目をした馬たちに囲まれて、つい居眠りしてしまった嵩。それを見つけた士官に「今日の試験は受けられんぞ」と宣告されて……。嵩、超絶G難度の日々。

 さて。第51回では暴力だけでなく、男たちばかりのむさくるしい描写もあった。嵩の背後で、足のにおいを「臭い」「臭くない」と騒いでいる兵隊たちの姿が描かれていた。朝から、足臭(くさ)合戦。これもまた顔をしかめる視聴者がいそうである。

 叫ばず、殴らず、ただ「いい声」で勝つ男――「がんばれない嵩」の静かすぎる逆転劇【あんぱん第52回レビュー】