トランプの次はバンス?日本企業の苦難は続くか
なぜ事態はこれほどまでに、こじれてしまったのか――最大の課題は、自身の成果をアピールする材料にしたいトランプ氏の思惑と、純粋にビジネスチャンスの拡大を目指す日本製鉄×USスチール、双方に大きなギャップがあることだろう。加えて、米国内のさまざまな手続きもハードルになる。
日本製鉄は、USスチールを完全子会社化するために米国政府と「国家安全保障協定」を結ぶことになる。この協定は、日本製鉄に複数の義務を課す。許可なくUSスチールの生産能力を一定期間削減しない、生産拠点を海外に移さない、CFIUSへ定期報告を怠らない、などだ。違反した場合、多額の罰金(制裁金)を支払うことになる。
また、トランプ氏は、6月4日から米国が輸入する鉄鋼・アルミニウム製品にかける追加関税を25%から50%へ引き上げることも表明した。国家安全保障体制の整備を名目に、USスチールが毎年一定の投資を行って雇用を増やし、その資金を親会社である日本製鉄が拠出するよう米政府が義務付ける懸念もある。
日本製鉄は、グローバルに事業運営の効率性を高めるためUSスチールの買収を発表した。しかしその計画は、米政権の介入により、当初予定とはかなり異なったものに変質しつつある。
特に、トランプ氏が再選した背景にある保守派層の「米国ファースト」の価値観は、簡単に崩れそうにないだろう。現在、米国の政界にはカリスマ性のある人材が見当たらないという。知日派で知られたジョセフ・ナイ氏(ハーバード大学教授)、リチャード・アーミテージ氏(元国務副長官)が亡くなったことも痛手とみられている。
共和党内では、トランプ氏の次は「バンス副大統領が政策路線を継承する」との見方が有力だ。トランプ大統領の任期が終了した後も、米国政府が日本製鉄に、黄金株や国家安全保障協定を根拠に難題を突き付ける懸念は残るだろう。
日本製鉄の米国事業がどのように進むかはもちろん、日本企業が米国の政治に振り回されるケースはますます増えそうだ。