
日本製鉄による米USスチール買収劇は、バイデン前米大統領が中止命令を出したことで政治問題に発展してしまった。日鉄側がバイデン氏を提訴するという非常手段に出ると、米国の労組や米鉄鋼大手まで参戦し、国境をまたいだ異例の混戦模様となっている。特集『日本製鉄の蹉跌 鉄鋼 世界大乱戦』の#2では、対決構造の全貌を明かすとともに、米国大統領をも訴えた日鉄の真意に迫る。(ダイヤモンド編集部 今枝翔太郎)
日鉄・橋本会長が大統領を呼び捨てで猛批判!
クリフスのCEOは激高して非難の応酬に
国内鉄鋼最大手の日本製鉄による米USスチール買収は、米国大統領選挙で政争の具にされ、政治問題化した。
今年1月には、退任間近だった当時のバイデン大統領が買収中止命令を発したことで、買収劇は新たなフェーズに突入。この命令を受け入れられない日鉄とUSスチールは、バイデン氏や米鉄鋼大手クリーブランド・クリフスなどを提訴した。日鉄の橋本英二会長兼CEO(最高経営責任者)は、会見で「バイデンの不当な判断」と当時現職の大統領だったバイデン氏を呼び捨てにし、怒りをぶちまけた。
これに競合のクリフスもすぐさま応戦する。ローレンソ・ゴンカルベスCEOは、会見で「日本は1945年以来、何も学んでいない」などと怒鳴り散らし、敵意をむき出しにした。
さらに、この対決に全米鉄鋼労働組合(USW)や米鉄鋼大手までもが加わり、次ページ図のような国境をまたいだ異例の混戦模様となっている。
そもそもなぜ日鉄は、当時の現職大統領を訴えるという奇策に出たのか。実はその裏には、単なる感情論にとどまらない日鉄の周到な策略があるのだ。
次ページでは、USスチール買収を巡る対決構造の全貌を明かすとともに、米国大統領をも訴えた日鉄の真意に迫る。