
日本製鉄による米USスチール買収劇は、両国の外交問題に発展した。当初2兆円とされていたこのディールは、追加投資などで3兆円規模に膨れ上がるとの見方も浮上する。米国のトランプ大統領を納得させ、同国の鉄鋼大手を傘下に収めるにはどうすればよいのか。特集『日本製鉄の蹉跌 鉄鋼 世界大乱戦』の#1では、関係者の証言から「買収成功シナリオ」を徹底予測する。(ダイヤモンド編集部 今枝翔太郎)
日本製鉄のM&Aが外交問題に発展
買収額が3兆円に膨らむ懸念も
「買収ではなく投資」
今年2月、トランプ大統領との日米首脳会談での石破茂首相のこの発言は、鉄鋼業界のみならず日本の経済界全体に衝撃を与えた。国内鉄鋼最大手の日本製鉄が進める米USスチール買収を「あくまで投資にすぎない」と言い切ったことになる。ある日鉄幹部は「日本の首相が日米トップ会談の場であんなことを言ってしまうなんて……」と頭を抱える。
会談後、別の場でトランプ大統領が「日鉄がUSスチール株式の過半数を保有することはない」と発言したことから、日米両首脳が日鉄によるUSスチール子会社化を認めていないとの臆測が広がった。
仮にトランプ大統領の説得に成功し、買収を実現できたとしても、日鉄には当初予定をはるかに上回る出費が求められるとみられる。トランプ大統領は、自国産業への投資や米国企業の“復活”にこだわっているため、老朽化した高炉の更新をはじめ、設備投資の上積みを求めてくる可能性があるのだ。
日鉄が2023年12月にUSスチール買収を公表した際には、買収額は約2兆円とされていた。その後交渉が難航して追加投資を約束したため、現状でも既に2兆5000億円規模の資金が必要になっている。
国内鉄鋼大手の関係者は「トランプ大統領を納得させるには、トータルで3兆円規模の額がかかってしまうのではないか」と不安を募らせる。USスチールの設備投資や米国内でのロビイングなど、買収関連で3兆円もの費用がかかるとなれば、日鉄の財務が急速に悪化することは想像に難くない。
日鉄がこのディールを成功に導くことはできないのだろうか。鉄鋼メーカーだけでなく、日米両方の資格を持つ弁護士や政府関係者など、業界に精通する関係者への取材を進めると、実現の望みがある「二つの成功シナリオ」が浮上した。
次ページでは、USスチール買収交渉の今後の展開を徹底分析し、ディールの成功シナリオを大予測する。