そりゃトランプ大統領も喜ぶわ…「黄金株」を差し出してまで日本製鉄が「USスチール買収」にこだわるワケペンシルベニア州にあるUSスチール・アービン工場で演説するトランプ米大統領 Photo:Jeff Swensen/gettyimages

最近トランプ大統領の機嫌が良くなった事案がある。日本製鉄によるUSスチール買収で約2兆円もの投資が動きそうなことだ。さらに日本製鉄からの「ある提案」が、難航していた買収計画を一転して歓迎ムードにしている。ただし、日本側が浮かれるのは時期尚早だ。日本企業が米国の政治に振り回されるケースがますます増えそうな気配がある。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)

日本製鉄の買収計画が「トランプの人気取り」案件に

 日本製鉄による、米鉄鋼大手USスチール買収に関して新たな動きがあった。5月30日、ペンシルベニア州にあるUSスチールのモンバレー製鉄所アービン工場で、トランプ大統領は日本製鉄による「140億ドル(約2兆円)の投資は、米国の鉄鋼産業の歴史上で最大」と喧伝した。トランプ氏はこれまで買収反対の立場だったが、一転して歓迎のスタンスに変わったとみられる。

 心変わりした背景には、日本製鉄からの提案があるだろう。日本製鉄はUSスチールを買収するために、「黄金株」を米国政府が保有することを提案したと報道されている。

 この提案はトランプ氏にとって、日本企業の資金を使ってUSスチールを再建する手柄を誇示するために重要だ。雇用の増加にもつながり、トランプ氏の人気取りにはうってつけな案件になる。

 ただ、トランプ氏は、買収が成立してもUSスチールは「米国がコントロールする」と明言した。日本製鉄は、米国政府と国家安全保障協定も締結しなければならず、かなりの制約になることが懸念される。そうした細部の詰めを含め、日本製鉄によるUSスチール買収にはまだ紆余(うよ)曲折がありそうだ。先行きを楽観するのはやや尚早だろう。