進化する組織を設計する

名和:本書の中で、横山禎徳氏の論文「建築家が見た組織デザイン」を取り上げていましたね。ヨシさん(横山さんのニックネーム)には、マッキンゼー・アンド・カンパニー時代に、建築家出身の経営コンサルタントならではのシステム全体を動的に見る視点を学びました。

ヘンリー:あの論文は組織設計の本質を語ったものです。組織設計は、未完成にしておくことが大切だという彼の指摘は、建築家ならではの卓見です。

名和:ヘンリーはヨシさんを引用しながら、「戦略と同様に、組織構造も計画するのではなく、学習していくようにすべきだ」と論じています。この点も、筆者の『学習優位の経営』(ダイヤモンド社、2010年)に通底するものと理解しました。

 では、組織が持続的に進化し続けるためには、何が要件となるのか。私は、創発的な組織には3つの要件が求められると考えます。それは、次のα、β、Σの3つの項の掛け算で表すことができます。

 組織資産=αβΣ(p)

 3つ目のΣ(p)は、組織に所属する人財の総和を表します。しかし、それは組織にとってはインプットにすぎません。その人財の総和を何倍、何十倍にも高めるのが、組織固有の力です。そのためにはパーパスやバリューといったソフトな要件と、「たくみ」を「しくみ」に変換するアルゴリズムといったハードな要件が必要となります。このような考え方を、どう思いますか。

ヘンリー:αは組織カルチャーや行動様式のようなもの、βはそれを方法論に落とし込んだものですね。前者が経験知(エクスペリエンス)で、後者が実証知(エビデンス)。言わば、前者が「アート」と「クラフト」、後者が「サイエンス」。Great, great! 私が思っていることそのものです。そして、その中で最も重要なものが、α、なかんずく組織カルチャーです。

名和:最終章では「組織を超える組織」の可能性について簡単に触れています。「未来については確かなことは言えない」というヘンリーにあえて問いかけたい。組織の未来はどうなるのでしょう。

未来は多様な可能性に
満ちている

名和:著作の最後にお嬢さんのスーザンが描いた不死鳥の絵が出てきますが(写真)。

カイシャがなくなる日がやってくる?出所:Artist Susan Mintzberg, at 7.
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ヘンリー:娘のスーザンが7歳の時に書いた絵を、たまたまずっと保管していたんです。50年前です。いまやスーザンは56歳。社会福祉の博士号を持ち、論文もいくつか出しています。

名和:あの不死鳥が飛び立っていく先には、どのような組織が待っているのでしょうか。

ヘンリー:組織から解き放たれた組織、言ってみれば組織ではない組織なのかもしれません。

名和:本書の中で、それは「unstitution」かもしれないとも言っていますね。組織institutionに対する、非組織としてのunstitution。

ヘンリー:(同じカナダ人の)Donna Nelhamは組織に縛られない自由な生き方を、そう呼んでいますね。ただ、その実態が何なのかは、正直まだわかりません。

名和:「組織でない組織」というのは、まるで禅問答ですね。固体から液体へと進化した組織は、最後には気体となって蒸発してしまうのか。その実態をとらえるためには、5次元か6次元のVRグラスが必要なのか。いや、そもそも実態すらないのかもしれない。いずれにせよ、ヘンリーが言うように、未来は多様な可能性に満ちているからこそワクワクします。