創業300年・中川政七商店の売上が「直近20年間で17倍」に伸びた“意外な転機”Photo:PIXTA

京都先端科学大学教授/一橋ビジネススクール客員教授の名和高司氏が、このたび『シン日本流経営』(ダイヤモンド社)を上梓した。日本企業が自社の強みを「再編集」し、22世紀まで必要とされる企業に「進化」する方法を説いた渾身の書である。本記事では、その内容を一部抜粋・編集してお届けする。名和教授が日本流経営の好例として評価するのが、創業300超の老舗企業、中川政七商店だ。2002年からの20年間で、同社の売上は17倍に成長したというが、その転機になった施策とは――。

経営学者が着目する
中川政七商店の強みとは?

 日本には長寿企業が多い。創業200年以上となる企業は1340社に上る。なかには創業400年を超える竹中工務店のような大企業も含まれる。その中から今回は、中川政七商店を取り上げることにする。超老舗企業でありながら、近年、新興企業張りの超成長を遂げているからだ。

 創業300年を超えていながら、「アンチ・エイジング」を実践する同社。その「若返り」の原動力は「守破離」にある。まさに日本流経営を地でいく企業といえよう。

 同社の創業は、1716年に遡る。奈良晒(ならさらし)黄金期に、初代中屋喜兵衛が奈良で晒の商いを始めたのが源流。その後も長らく手績み手織りの麻織物の商いを続けていたという。そのまま「守」に終始していれば、ほかの長寿企業同様、地方の小粒な企業であり続けていたはずだ。

 しかし、2008年に中川淳氏が第13代当主に就任すると、同社は大きく業容を拡大し始める。生活雑貨工芸品の製造小売業(SPA)に進出することにより、10年足らずで売上は10倍以上に成長していった。まさに「破」のプロセスといえよう。

 進化はそこで止まらない。本業の小売りと並行して、日本の老舗工芸品メーカーへのコンサルティングを開始。いまではさらに、教育や地域活性にも事業領域を拡大している。言わば「破」のセカンドステージである。

 2018年には、社員出身の千石あや氏が第14代当主に就任。創業家出身ではない当主は、同社の長い歴史上初めてだ。一方、会長となった中川氏は、以前から手掛けていた「産業観光」に注力している。

 産業観光とは、「人がものづくりの現場を旅して、産地の食や文化丸ごと工芸の魅力に触れる新しい観光のかたち」を指すという。2013年に始まった、金属加工で知られる燕三条地域でのオープンファクトリーは毎年活況を呈し、現在では地元奈良のリブランディングにも力を入れている。言わば「離」のプロセスである。

 伝統と革新は、対立するものととらえられがちだ。しかし、伝統を学び(守)、伝統を革新する(破)ことを通じて、新たな境地が生まれる(離)。そして、それが世の中に受け入れられることで、次世代の伝統となる。ここからは、筆者が監修した中川氏へのインタビュー(注)も踏まえながら、中川流の「伝統から革新を生み出す術」に迫ってみたい。

注)「日本の工芸を元気にする!」日立製作所Executive Foresight Online, 2016年12月7日

創業300年・中川政七商店の売上が「直近20年間で17倍」に伸びた“意外な転機”PHOTO (C) MOTOKAZU SATO
京都先端科学大学 教授|一橋ビジネススクール 客員教授
名和高司 氏

東京大学法学部卒、ハーバード・ビジネス・スクール修士(ベーカー・スカラー授与)。三菱商事を経て、マッキンゼー・アンド・カンパニーにてディレクターとして約20年間、コンサルティングに従事。2010年より一橋ビジネススクール客員教授、2021年より京都先端科学大学教授。ファーストリテイリング、味の素、デンソー、SOMPOホールディングスなどの社外取締役、および朝日新聞社の社外監査役を歴任。企業および経営者のシニアアドバイザーも務める。