5月22日、来日中の経営論の大家ヘンリー・ミンツバーグ教授と、東京・有明のホテルで対談する貴重な機会を得た。ヘンリー(教授をファーストネームで呼ばせていただく)との対話のテーマは「資本主義の未来」「カイシャの未来」「働くヒトの未来」の3つ。後編では「カイシャの未来」「働くヒトの未来」を取り上げる。

 風と土との代表阿部裕志氏のご厚意で実現したこの対談。対話の要点をできるだけリアルに、ここに再現したい。(名和高司)

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囲い込まれた組織の境界を開く

名和ヘンリーの近著『ミンツバーグの組織論』(ダイヤモンド社、2024年)は、半世紀以上にわたる思索の集大成といえるでしょう。Understanding Organization...Finally!という原文タイトルが、その想いを如実に語っていると感じます。

 本書では「組織の未来」について、いくつかの洞察を語っていますが、組織の運動論として、「アウトバウンドの力」と「インバウンドの力」があるとおっしゃっていますね。

ヘンリー:はい、これまで組織は境界に囲い込まれてきました。しかし、これからはその境界を開いていく必要があります。もっと外とつながり、内に閉じ込めているものを外に開放していかなければならない。同時に、内にないものをどんどん外から取り込む必要がある。

名和:しかもそれを、M&Aのような市場原理ではなく、組織のしなやかな動きとして身につけなければならないはずですね。

 アウトバウンド、すなわち遠心力が強すぎると、昨今、Web3型といわれる「DAO」(decentralized autonomous organization:分散自律型組織)に向かっていく。これではスキルやスピードは尖るが、組織としての一体感は保てません。

 そこで、自律しているものの自由に結合できる「DACO」(decentralized autonomous connected organization:自律結合型組織)を、デジタル時代の組織の姿として私は提唱しています(図表1)。

図表1 創発型組織(DACO)への進化

カイシャがなくなる日がやってくる?出所:名和高司(2023)
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 ヘンリーの論点も、創発型組織DACOを目指そう、というものだったと理解しています。

ヘンリー:ただし組織は永続的な状態ではありえません。外部環境、内部環境の変化に合わせて、常に変化しなければならない。固体ではなく流体なのです。したがって、組織設計は、進化することを前提とした創発的なプロセスとしてとらえる必要があります。

カイシャがなくなる日がやってくる?ヘンリー・ミングバーグ 氏 (中央) 、阿部裕志 氏 (左)、名和高司 氏 (右)