「クラフト」と「エシックス」が
最大価値の源泉となる
名和:最後に今日のキーメッセージをヘンリーにぶつけてみたい。それは、ヘンリーのトライアングルと私のトライアングルを異結合させるという「ウルトラC」の試みです。
組織の未来、そして働き方の未来がどうなるかは、まさに未知数でしょう。でも、そのような中で、組織にもヒトにも必須となる資質が、これら4つではないかと考えています(図表2)。
図表2 4Q Emergent Organization Model

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下のトライアングルはヘンリーの持論の3つ、すなわち「サイエンス」「アート」「クラフト」を示したものです。それぞれIQ、EQ、PQとも呼んでいます。PQのPはギリシア語のphysis(ピュシス)、すなわち自然のことです。実体と言い換えてもいいでしょう。「クラフト」を実践する現場です。
一方上のトライアングルの頂点には、「エシックス」を掲げました。判断軸となるので、JQすなわちjudgment quotientと呼んでいます。そして、そのJQは3つのS、すなわちシステミック(全体知)、スパイラル(試行錯誤)、スピリチュアル(霊性)の3つの積で創発されるという構造を示しています。いかがですか。
ヘンリー:「エシックス」が、「クラフト」「アート」「サイエンス」のトライアングルの上に存在すべきだというのですね。その通り。「エシックス」は組織、そしてヒトの魂(soul)と呼んでもいい。これは素晴らしい。
名和:そして、これら4つの中で大切なのが、「クラフト」と「エシックス」。いまこの瞬間、「身心一如」(body-mind unity)という禅の教えが、電流のように流れたように感じました。
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ヘンリー・ミングバーグ 氏
マギル大学クレグホーン寄付講座教授兼経営学大学院教授。1939年カナダに生まれる。1961年にマギル大学工学部を卒業後、マサチューセッツ工科大学スローンスクールでMBA、1969年に同大学院にて博士号を取得。1968年から母校マギル大学に戻り、産業界のみならずに政府にもコンサルティングや提言を行っている。著書に『戦略サファリ』(東洋経済新報社、1999年)、『MBAが会社を滅ぼす』(日経BP社、2006年)、『私たちはどこまで資本主義に従うのか』(ダイヤモンド社、2015年)、『ミンツバーグの組織論』(同、2024年)などがある。経営思想界のアカデミー賞といわれるThinkers50で3人目となる生涯功績賞(Lifetime Achievement Award)を受賞。
名和高司 氏
東京大学法学部卒、ハーバード・ビジネス・スクール修士(ベーカー・スカラー授与)。三菱商事を経て、マッキンゼー・アンド・カンパニーにてディレクターとして約20年間、コンサルティングに従事。2010年より一橋ビジネススクール客員教授、2021年より京都先端科学大学教授。ファーストリテイリング、味の素、デンソー、SOMPOホールディングスなどの社外取締役、および朝日新聞社の社外監査役を歴任。企業および経営者のシニアアドバイザーも務める。2025年2月に『シン日本流経営』(ダイヤモンド社)を上梓した。
阿部裕志 氏
京都大学大学院修了。トヨタ自動車の生産技術エンジニアとして働くが、競争社会のあり方に疑問を抱き、持続可能な社会のモデルを目指す人口2300人の島・海士町(島根県隠岐郡)に2008年移住、起業。トヨタ自動車・NTT・ロート製薬など100社以上が参加するリーダーシップ研修「SHIMA-NAGASHI」を行う人材育成事業を中心に、出版社「海士の風」を運営する出版事業、「海士町創生総合戦略」など島の課題を解決する地域づくり事業を行う。海士町は独自の行財政改革と産業創出・教育改革を進め、20年間で1000人を超える移住者が集う島となった。