【世界史ミステリー】「ブルジョワ」って何者? 単なるお金持ちではなかった!
「地図を読み解き、歴史を深読みしよう」
人類の歴史は、交易、外交、戦争などの交流を重ねるうちに紡がれてきました。しかし、その移動や交流を、文字だけでイメージするのは困難です。地図を活用すれば、文字や年表だけでは捉えにくい歴史の背景や構造が鮮明に浮かび上がります。
本連載は、政治、経済、貿易、宗教、戦争など、多岐にわたる人類の営みを、地図や図解を用いて解説するものです。地図で世界史を学び直すことで、経済ニュースや国際情勢の理解が深まり、現代社会を読み解く基礎教養も身につきます。著者は代々木ゼミナールの世界史講師の伊藤敏氏。黒板にフリーハンドで描かれる正確無比な地図に魅了される受験生も多い。近刊『地図で学ぶ 世界史「再入門」』の著者でもある。

「ブルジョワ」って何者? 中世ヨーロッパ史をおさらい
第1回十字軍が始まる頃、ヨーロッパ各地に新しい共同体が頭をもたげます。それが都市、より正確には中世都市です。中世都市の背景は、商業の活性化と市場の形成にあります。
11世紀の後半に、西ヨーロッパでは農業効率が改善したことにより、生産性が向上しました。この結果、余剰生産物が生じます。農村では農産物が余るようになったわけですね。余った農産物はどうすればよいか。……そう、売ることでさらに利益を得よう、となります。
そこで、各地の農村に市が立つようになります。この市は、開催が一定期間ごと(4日に一度、5日に一度など)であったため定期市と呼ばれます。
定期市での取引(=商業)が活性化すると、市が常態化、すなわち毎日開催されるようになり、市場として固定化されることになります。この市場を中心に周辺の村落などが集住し、また商人や手工業者(職人)なども定住するようになります。
最後に周辺が城壁で囲まれることで、中世都市が形成されるのです。中世都市の起源は様々ですが、いずれも市場を中心とした商業が付帯していた点はほぼ共通しています。下図(図47)を見てください。

中世都市を象徴するのが、中央広場と城壁です。中央広場は文字通り広場ですが、ここはかつて市場が開かれていた名残です。ドイツでは、中世都市の広場をマルクト広場Marktplatzと呼びますが、このMarktは「市場」を意味します。
また、城壁は外敵から身を守るだけでなく、城壁内に居住する市民は、都市という共同体においては相対的にエリートに位置する人々でした。ここでいう「市民」とは、商人や手工業者のことで、彼らはやがて同業者同士での扶助や競争防止(あるいは利益の占有)を目的に組合を結成し、これをギルドと呼びます。
正式に市民と見なされたのは、都市貴族や富裕な商人、そして手工業者ギルドの親方に限られ、彼らは市参事会への出席が認められます。城壁はドイツ語でBurg、フランス語でbourgといい、城内に住む市民(エリート)は後に「ブルジョワ(bourgeois)」と呼ばれるようになります。
(本原稿は『地図で学ぶ 世界史「再入門」』を一部抜粋・編集したものです)