「テストでいい点をとったら、欲しいものを買ってあげるよ」と、声かけをしたことがある親は少なくないだろう。子どもにやる気を出させるためについつい言ってしまいがちなセリフだが、この方法を続けていると、褒美がないと頑張れない子になってしまうという。どうすれば、褒美がなくても頑張れる子どもに育つのだろうか。元東京都公立小学校指導教諭で、ベネッセ教育研究所の主席研究員である庄子寛之さんは、著書『自分で考えて学ぶ子に育つ声かけの正解』「大切なことは、結果よりも過程を評価すること」と語る。本記事では、子どもの「自ら頑張る力」を育む声かけのコツを詳しく紹介する。(文/神代裕子、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

声かけの正解Photo: Adobe Stock

褒美でやる気は続かない

 子どもの頃に、「次のテストを頑張ったら、欲しいと言っていたゲームを買ってあげる」などと、親から言われて頑張った経験がある人も多いのではないだろうか。

 筆者も何度か言われた覚えがある。しかし、最初のうちはご褒美が欲しくて頑張っていたが、だんだん「ま、いいか」という気持ちになって努力しなくなったように思う。

 このように「何かをしたら、褒美を与えて行動への意欲を高めること」を心理学用語で「外発的動機づけ」というそうだ。

 そして、「褒美を日常的に与えてしまうと、長続きしません」と庄子氏は語る。

 なるほど、だから学生時代の筆者のやる気も続かなかったのだ。

自ら頑張る子に育てるには結果ではなく過程を褒める

 できることなら、褒美などなくても自ら頑張ってくれる子に育ってほしいと思っている親は多いだろう。そのためにはどうすればいいのだろうか。

 庄子氏は「大切なのは、結果よりも過程を評価すること」と提案する。

テストで100点をとったら、
「100点とれてよかったね! さすがだね!」
と褒めるのではなく、
「よく頑張ったね。どんな工夫をしたの?」
と聞きます。
過程を評価することで、「自分なりの方法が認められた」「また、新しい工夫を考えてみよう」など、自発的な頑張りにつながります。(P.42)

 これは、「内発的動機づけ」につながる褒め方だ。

「内発的動機づけ」とは、「外発的動機づけ」に対して「楽しい」「興味がある」「やりたい」などの内から湧き出るもので意欲を高めること。ここでは、親に過程を評価されたことで「またやってみよう!」という興味ややる気につながっていると言える。

 一方で、結果を見て褒美をあげていると、「何かもらえるからやる、何ももらえなかったらやらない子」に育つ恐れがあるという。

 さらに、「外発的動機づけ」には、褒美だけでなく、「『親や先生からしかられたくないから』といったものもある」と庄子氏は指摘する。

 褒美だろうと叱責だろうと、外的要因でやる気を出させるのは健全ではないということだろう。

外発的動機づけをうまく使うには

 とはいえ、励ましたり促したりしてもなかなかうまくいかないので、親はつい「ご褒美あげるよ」と言ってしまったり、時にはしかってしまうのだと思う。

 褒美も叱責もダメと言われたら、「どうしたらいいんだ!」と頭を抱えてしまう人もいるだろう。

 そこで庄子氏は次のような方法を勧める。

内発的動機づけを大事にしながら、外発的動機づけを上手に使うというのが私の考えです。
褒美なら、子どもだけが喜ぶものではなく、きょうだいが喜べるものや、家族全員が喜べるものにします。「みんなで遊べるおもちゃ」や「家族でご飯に行く」などです。
ひとりだけが幸せになる褒美による頑張りは、長続きしません。みんなが喜べる褒美を与えることで、人のために頑張れる子に育っていきます。(P.43-44)

 例えば、「今日はお兄ちゃんがテスト勉強を頑張っていい点数をとったから、みんなで外食に行こう!」といった声かけをするイメージだろうか。

 確かにこれならば「テスト勉強を頑張った自分」を親から認めてもらい、かつ「みんなで楽しく外食ができる」というご褒美もある。

 きょうだいから「お兄ちゃんが頑張ったおかげ!」という喜びの声も聞けて、さらにやる気につながるかもしれない。

自己効力感が内発的動機づけにつながる

 なぜこうした声かけが有効なのか。

 心理学者アルバート・バンデューラの「社会的学習理論」によると、「自己効力感」が重要な役割を果たしているのだそうだ。

「自己効力感」とは、「目標を達成するための能力を自らが持っていると認識すること」だ。

「自分はできる」「大丈夫」と思えることは力になる。

 庄子氏は、「子どもが親の反応を観察し、自分の行動が肯定的に受け入れられていると感じることで、自己効力感が高まり、内発的動機づけが促進されていきます」と語る。

 親が「その行動、いいね!」と言ってくれることで、「そうか、この方法でいいのか」「また頑張ってみよう」と思えるということだろう。

 親の声のかけ方一つで、子どもが「頑張ろう!」と思えるのであれば、こんなに素晴らしいことはない。

 子どもがいる方は、ぜひ、今日から実践してみてほしい。