トランプ関税は「保護主義革命」、閉鎖経済で国力を強めたロシアの政策を踏襲へ【佐藤優】日米協議のため米ワシントンを訪れた赤澤亮正・経済再生担当相(左)と突然会談を行うなど、トランプ大統領の行動は相変わらずマイペースで予測不能に見える(写真は内閣官房のSNSより) Photo:JIJI

トランプ米大統領はロシアの政策を踏襲し始めたのか――。「トランプ関税」で世界の経済と政治を翻弄しているトランプ大統領の本当の狙いとは?(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優、構成/石井謙一郎)

「自由貿易は善、
保護主義は悪」を覆す

「トランプ関税」が世界の経済と政治を翻弄しています。このトランプ関税には二つの狙いがあります。

 第一は、諸外国との貿易収支の改善です。「マーケットを開けて、米国の製品をもっと買え。非関税障壁をなくせ」という要請です。この場合、相手国が米国製品の購入を増やし、米国の貿易赤字を解消もしくは縮減すれば済むので、処方箋を書くことはそう難しくありません。

 第二の狙いは、米国の産業構造の大転換です。米国内で自動車や電子レンジ、洗濯機、冷蔵庫などの家電製品から、衣服などの繊維製品まで作れるようにしたい、とトランプ米大統領は考えているようです。高い関税をかけることで企業の生産拠点を米国内に移させ、金融経済が膨らみ過ぎた米国の産業構造を、ものづくりを中心とする実体経済にシフトしようというわけです。

 日本のメディアは第一の狙いばかり問題にしていますが、トランプ氏の本当の狙いは2番目にあると筆者はみています。現に、相互関税の導入を予告していた4月2日、ホワイトハウスの庭園「ローズガーデン」で演説したトランプ氏は、「4月2日は米国の産業が再生した日、米国が再び豊かになりだした日として、永遠に記憶されるだろう」と述べ、「米国史上最も重要な日の一つだ」と位置付けました。「自由貿易は善、保護主義は悪」という第2次世界大戦後の世界の常識を覆そうとしているのです。

 だとすると高関税は、産業構造を転換し終えるまで続きます。米国製品の輸入増加といった弥縫策では解決にならず、日本企業も米国へ工場を移転するなどの根本的な対応が必要になります。

 考え方次第で、日本のビジネスパーソンにとってはチャンスです。現在の賃金水準を考えると、米国の工場や支社に赴任すれば年収1000万円は下らないでしょう。エンジニアなら2000万円もらえます。米国は住宅費が高いので年に500万~600万円かかるでしょうが、外食を控えれば、スーパーで売っている食材の値段は日本と大差ありません。

 すると若い人でも、年間200万~300万円は貯金できるはずです。3年間の出稼ぎで、エンジニアだったら3000万円ほどためて帰れます。長い目で構造的に考えたとき、従業員を付けた上での工場の移転も、企業にとって十分あり得る選択肢です。