「かつて、生活を共にしながら貧困に苦しむ人々を支援する「セツルメント活動」という社会運動が広がった時代がありました。政治や社会に深く関与していたボランティア活動が、いつどのように変化したのか。それを見極めれば、政治や社会に関心を持たない若者が生まれる背景がわかるのではないかと考えたのです」(…)

自分の常識が通用しない世界で
疑問が好奇心に変わる

「社会に対する関心がない」「シニカルな学生」だった仁平さんが、自分からもっとも遠い場所だと判断した知的障害児施設でボランティアに取り組むことにより、変わっていく様子が描かれています。

 この引用でとくに強調しておきたいのは、「大学院に入ってからは、政治に対する無関心の背景を知りたくなった」という部分です。

 常識だと思っていたことが通用しない世界に飛び込み、「どういうことなんだ?」と疑問を抱く。その疑問が、「知りたい」という気持ちへとつながったのです。

「知りたい」までいけば、ロバート・キーガン氏(発達心理学者、著書に『なぜ人と組織は変われないのか』など)らが提唱する「構造発達理論」の「発達段階2」突入です。

 関連して、ひとつ有名な学術理論を紹介しておきましょう。スタンフォード大学の教授であり、心理学、キャリア論を専門とするジョン.D.クランボルツ氏が提唱した「計画的偶発性理論」です。

 クランボルツ氏のこの理論は、日本では『その幸運は偶然ではないんです!ー夢の仕事をつかむ心の練習問題』(ダイヤモンド社、訳書2005年)として紹介されました。

 タイトルだけをみると自己啓発本のようにかんじられますが、実際にはクランボルツ氏らのデータ収集と分析に基づいて書かれたものです。

 この本の帯には、「もうキャリアプランはいらない」と大きく書かれています。どういうことかと疑問に思う方もいるかもしれません。

 学校の進路指導では、「どういう仕事に就きたいのかを考え、それを実現するためにはどこで学べばいいのか、その進学を実現するためにはどういう準備、勉強をすればいいのか考えなさい」といったアドバイスがなされるのが一般的です。

18歳の時になりたかった職業に
実際についた人はわずか2%

 要はキャリアプランをベースに考えなさい、ということですが、クランボルツ氏はその反対の主張をします。