「三択法」の秘密
ここで私が提案したのが「三択法」だ。
お客様にBコースを選ばせたければ、Cコースをつくればいいのである。
もっとサービスの内容をグレードアップし、時間も大幅に延長したCコースをつくるのだ。
私のアドバイスをもとに、そのお店で90分、1万5000円のCコースが出来上がった。
AやBと比べても、すべてにおいて満足度の高い上級者志向のサービス内容としたのである。
●Aコース 45分 7000円
●Bコース 60分 1万円
●Cコース 90分 1万5000円
一目でわかる商品メニューだ。
この結果、Bコースを選択するお客様が60%に増え、Aコースが25%に、そしてCコースを選ぶお客様も15%となった。
メニューを2つから3つに変えただけで、店の収益は30%程度アップしたと聞いた。
BやCコースはとても利幅の高い商材だったからだ。
それにしても、なぜここまで効果があったのだろうか?
これまで多くのお客様がAコースばかりを選んでいたというのに、どうしてBコースを選択するお客様が飛躍的に増えたのだろう?
それは、前述した「選好の逆転」現象が起きているからである。
人は何かを選ぶとき、無意識のうちに理由を探す。
「決断」も同じだ。
何もせず、このままの現状を維持させるのか、それとも何らかのチャレンジをするのかを決断することも、2つ以上の選択肢の中から選んでいるのだ。
人間は、すべての行動を合理的価値観のもとで判断しているわけではない。
絶対的な基準ではなく、何らかの比較、つまり相対的な基準を下敷きにして決断していることがとても多い。
だから、価格の順でA・B・Cとあったときに、「B」は「A」よりも高いが、「C」よりは安いと考える。
缶コーヒーやミネラルウォーターを買うのならともかく、私にとってのヘッドスパのように、価格の妥当性がわかりにくい場合、このような「三択法」は有効なのだ。
缶コーヒーやミネラルウォーターを買う場合、他の製品との比較ではなく、過去の体験と比較して判断する。
自動販売機で売られている缶コーヒーのほとんどが「120円」だとすると、「100円」の缶コーヒーを見つければ、あなたは安いと判断するだろうし、「150円」の缶コーヒーを勧められれば、ちょっと高いなと感じることだろう。
一方、過去あまり体験がないようなサービス(私の場合のヘッドスパなど)だと、過去に比べる対象がないし、他店の情報も事前に調べていない。
こういう状況下では、提示されたメニューの中で比較するしかない。
だから、ヘッドスパの価格やサービス内容を、その選択肢の中だけで相対評価するようになる。
自分の決断を正当化するためにも、格好の材料となるのだ。
松・竹・梅のように、3階層の選択肢があれば「~よりは落ちるが、……ほどではない」という落としどころが見つかり、真ん中が妥当と、無意識に思い込む。